これが何を意味するか、お分かりでしょうか。投票権があるA1会員は病院や診療所のトップですから、結局、「医療機関単位で票が与えられている」ことになります。そうなると、病院が4874に対して、診療所は7万3715、その差、約15倍もあるのです。自分1人でやっている開業医も、500人の医師を抱える大病院の院長も、与えられているのは同じ1票。実に巨大な“権力”が開業医に与えられていることになるのです。つまり日本医師会という組織は開業医の業界団体という色彩が濃い。この医師会が政治献金や行政への陳情、圧力といった手段で、日本の医療に大変大きな影響力を及ぼしているのです。

先の衆院選の敗北で、状況は変わってきていますが、長い間、医師会は多額の政治献金を自民党に送ってきました。今回の選挙では民主党を支持した医師会も多数あります)。医者を味方につけたい厚生労働省も、医師会の意見を実によく聞いてきました。その結果、どうなったかというと、日本の医療制度が診療所中心で、診療所に有利な形に出来上がってしまったのです。

具体的には「病診連携」という仕組みのことです。日常的な怪我や病気に関しては診療所、すなわち、かかりつけ医が面倒を診て、症状が安定していない急性期のものや、高度な技術を要する病気に関してのみ、病院が診療にあたる、というものです。その場合の病院も一律ではありません。たとえば救急病院は設備や医療体制の違いにより、第1次から第3次まで分かれています。

こうやって下から積み上げていくやり方は決して間違ってはいないと思うのですが、病院にとって酷なのは、診療所とうまく連携しないとやっていけない仕組みになっていることです。病院は高度な治療に特化するので、救急患者以外は、初期的な医療には携わりません。でも患者が突然沸いてくるわけではなく、どこからか連れてこなければならない。診療所から紹介してもらうしかないのです。そうやって、全患者のうち、診療所からの紹介率をある程度保たないと保険の点数が上がらない、つまり収入が増えない仕組みになっているのです。そして、その点数も診療所に有利に決められてきました。