本書は多面的な視点から「格差」問題を取り上げて分析している。小泉政権当時に格差の是非が議論され、近い将来予想される解散総選挙で大きな争点になる可能性が高い。与野党がどう格差問題に取り組むのか比較・検討するうえで、本書は最適の指南書である。

「新古典派経済学や新自由主義と親和性が高いトリクルダウン(富める者が富めば貧者もその恩恵を受ける)理論は、富裕層が成長すれば、底上げ効果が期待できるとする。一方、成長優先のトリクルダウンが貧困を削減する効果を疑問視する見解もある」(32頁)から、最近の欧米金融市場が「100年に1度あるかないか」の危機を迎えているときに、再検討するのにいい機会を本書は与えてくれる。

本書は1人の政治学者と9人の経済学者によって著された。「格差」に関する価値判断は各執筆者に委ねられているので、本書を読むと、かくあるべきと思い込んでいたのとは異なる価値観に触れることができ、新たな発見につながるだろう。「格差」は日本固有の問題ではない。先進国が「格差」問題にどう取り組んでいるかも紹介されており、非常に参考になる。

本書によれば、世代間格差、世代内格差、地域間格差、学力格差など様々な「格差」は少子化問題、教育問題、地方財政問題、社会保障問題、金融システム問題と密接に絡み合っている。 「格差」問題への対処法は、日本の抱える諸問題に対する解答になりうるのである。

「格差」はどの程度許容できるか、あるいはどの「格差」を是正すべきかは、各個人の判断に委ねられるので、コンセンサスを得ることが困難である。しかし、「親の所得によって子供の学力に著しい格差が生じる社会に明るい未来はない」(206頁)という点に関しては広く支持を得られるであろう。

日本では就学援助の多い(親の所得が低い)地区ほど児童生徒の学力テストの点が低いという調査結果が出ており、イギリスでも同じ現象が起きていることが本書で紹介されている。

違うのは両国政府の取り組み方である。「市場原理主義という競争的な教育制度の中にあっても、イギリスの取り組みの中に子供の学力格差への対応がある」(204頁)。イギリスが積極的に学力格差をなくそうとしているのに対し、日本はこの問題を積極的に検証しようとしない。「最も戒めるべきは格差に対する無関心である」(201頁)。このままでは日本の将来に不安を覚えざるをえない。

「『真の地域格差』は『所得格差』ではなく、『労働生産性の格差』である」(155~156頁)。生産性が向上しなければ、地方に多い中小企業・非製造業に対して規制や公共工事のような所得配分政策を執らざるをえなかったが、日本の財政には最早その余裕がない。それが「地域格差」の原因であるなら、いかに生産性を上げるか、社会保障制度がどうあるべきかを考えざるをえない。まさに、格差問題抜きであるべき日本の構造改革を考えることはできないのである。

日本の「格差」問題は、アメリカの新自由主義的イデオロギーを持ち込んだ小泉政権に原因があるわけではないが、当のアメリカが大きな危機に直面している現在、前著『「小泉改革」とは何だったのか』(日本評論社)と併せて読むことをお勧めしたい。