「預金通帳や源泉徴収票等々、向こうが欲しい資料を全部曝して『買える』人であることをアピールする」
 とは藤沢氏と共通。ただし、その理由がなかなかふるっている。

「こいつを逃したくない、という心理を逆用して担当者をバインド(束縛)するんです。殺し文句は「おまえから買いたいんだよ、ただなあ……」。担当者を味方に取り込み、一緒に上司を説得する形に持ち込むのである。ただ、他物件への“浮気”も示唆しつつ、明言はしない。実際にその物件を調べられては困るからだ。仮に早々と1割(400万円)引きを持ちかけられても、「うーん」と考え込む。こうして担当者が『いける』『浮気するかも』等々勝手に妄想を膨らませるよう仕向けていく。

「担当者は上司を説得し、夜討ち朝駆けで自宅にも来るでしょう。そこで、かみさんには前もって『値段の話はするな。思わせぶりな態度を取れ』と言っておく」(藤山氏)

これが精一杯、ともう5%(200万円)引かれても言葉を濁す。「おまえも大変だな。今月はあと(ノルマ)何本だ?」と相手の心配をしてみせる。そして、おもむろに『1900万円でどう?』と半値以下で切り出すのだ。

「初対面で『1900万』では、担当者は“敵”のままです。何回か会って、相手を取り込んだと思ったタイミングで手のひらを返す。そうすれば、本当にギリギリの値段が出てきます。『この物件は3100が限度ですが、2軒隣のなら日当たり悪いけど2600でいけます』という具合。すると、『だったらこっちを2700で』といった交渉に持ち込みやすくなる」(藤山氏)

まるで催眠術である。実地で試すには相応の経験も必要なようだが、「不動産の営業マンは、まさか客に騙されるとは思っていない。引っかかりますよ」と、藤山氏は自信満々である。