2009年4月から7月にかけて5回シリーズで放送されたNHKの大型ドキュメンタリー番組「マネー資本主義」。同じ素材をもとに取材班が新たに書き起こしたのがこの本だ。

NHK取材班 井上恭介チーフプロデューサー。代表番組は「敵対的買収を防げ~新日鉄・トップの決断」など(写真左)。角英夫チーフプロデューサー。代表番組は「激流中国」「プーチンのロシア」など(写真右)。好評を博した同シリーズの再放送が決定。第3回10月29日、第4回11月4日。いずれも午前0時45分~(NHK総合)。
NHK取材班 井上恭介チーフプロデューサー。代表番組は「敵対的買収を防げ~新日鉄・トップの決断」など(写真左)。角英夫チーフプロデューサー。代表番組は「激流中国」「プーチンのロシア」など(写真右)。好評を博した同シリーズの再放送が決定。第3回10月29日、第4回11月4日。いずれも午前0時45分~(NHK総合)。

1970年代に姿を現し08年9月にリーマンショックで大爆発を引き起こした現代の化け物、金融資本主義。誰がいつ何を考え、いかなる背景のもとに生み出したのか。そして手のつけられない怪物に育ったのはなぜなのか。番組では多面的な切り口から正体の解明を試みた。

圧巻だったのは、米国在住のキーパーソンを次々と口説き落とし、画面上で証言させたこと。金融危機を招いた張本人である投資銀行の元経営者や米金融当局者、危険な金融商品を開発した天才エンジニア、そして高利回りを求め、投資銀行やヘッジファンドの尻を叩き続けた年金基金の大物たち……。彼らの証言は、背景説明を加えられ本書の中でより詳しく紹介されている。

たとえば、番組では証券化の仕組みを比喩を交えて平易に解説してくれた韓国系の金融工学者。彼の一族は、どのような事情で米国に渡ってきたのか。父や母はどんな人柄なのか。そういった描写も本書には随所に差し挟まれている。番組を見て大づかみに状況を把握したうえで本書を読めば、いっそう深く「マネー資本主義」の問題点が理解できる仕掛けである。

「私たちが意図したのは『事実』を世の中に伝えるための装置になろうということでした。そのため、とにかく現場の証言を記録しようと考えたのです」

執筆陣の一人である角英夫チーフプロデューサー(CP)はこう語る。

といっても、リーマンショックの余燼がくすぶる中での取材である。「悪魔」「犯罪者」と名指しされる関係者らはメディア、とりわけ外国メディアを容易には寄せ付けない。第3章と第4章を担当した井上恭介CPは「実際にはディレクターが手紙を書いては無視され、断られ、の連続でしたよ」と振り返る。

どうしても証言を取りたい組織や人物(たとえば巨大年金基金のカルパース)には、歴史を切り開いてきた先駆者として「じっくりと話をききたい」と持ちかけた。「じっくり」というのは単なるレトリックではない。取材班は20人以上にのぼる登場人物の一人ひとりに「およそ3時間にわたって、自分が経験してきた30年間を語ってもらった」(角氏)という。

まさに本格的というほかない取材ぶり。堂々たる保守本流のジャーナリズムを見せつけられた思いである。