「党内融和」を目指すほど「官僚主導」になるジレンマ

政治家としては「保守」の側面が目につく。政治を学んだ松下政経塾は自衛隊への体験入隊があるなど右派色が強い。民主党の国会議員には政経塾出身者が目立つが、自民党は世襲などで空白区が少なく、やむなく民主党を選んだ議員もいると聞く。そんな政経塾出身者の集まりを源流とするのが、党内でも右派色が濃いとされる野田グループ「花斉会」だ。

野田首相の掲げる復興増税、原発再稼働、日米同盟機軸といった政策は自民党の政策にもよく似ている。

昭和を代表する政治家だった田中氏は、「日本列島改造論」を唱え、全国に高速道路と新幹線を張り巡らせた。

象徴的なエピソードがある。本州四国連絡橋は、兵庫、岡山、広島の3本のルートがある。当初計画は1本だった。3人の大物政治家が熾烈な誘致合戦をくり広げたが、田中氏のウルトラCで決着した。「3本とも通す」。

時代は変わった。金権政治の反省から、企業・団体献金を減らそうと95年に政党助成金が導入された。民主党には10年173億円が交付されている。財界の影響力は相対的に薄れ、党と官僚の力が強まった。民主党は保守から革新までが政権交代のために集った党である。野田氏は代表選を巡る恩讐を超えるため「ノーサイド」を呼びかけ、「党内融和」を強調する。しかし八方美人ではカネがかかりすぎる。党の支持基盤である官僚と労組に遠慮して、公務員制度改革や歳出削減は遅れ、復興を錦の御旗にした増税論が進む。割を食うのは国民だ。

政経塾の後輩で国会当選同期の中田宏元横浜市長は、野田首相をこう評する。

「僕より100倍は品行方正。人の話をよく聞き、じっと考えて結論を言う。自己主張するタイプではなく謙虚です。でも景気や雇用の話をする人ではなかった」

増税は景気を冷え込ませる。その寒気を防ぐような目新しい経済政策は、まだ示されていない。田中氏は官僚を遠ざけ、カネの力で奇抜な発想を具体化させた。果たして野田首相はどうか。官僚の言いなりに終わるようでは、政権再交代は避けられないだろう。