「国際標準は知財戦略の柱の一つ」といい切る野間口だが、その知財戦略を三菱電機の経営の中に根付かせていったのもまた、社長時代の彼であった。事業部門-研究開発(R&D)部門-知財部門が1つに融合した姿を「三位一体経営」と呼び、同社の舵取りをこちらの方向に誘導してきた。知財部門を社長直轄にしているのもこの会社の特徴で、

「例えばこの事業を強化したいとなると、そのためのR&Dの課題は何か、それではこういう形で先行的に開発しようとなります。そこで、その事業に関わる知財を分析して、こういう課題があるなと明確な答えが出せるようになりました。今は攻撃にしろ防御にしろ、非常に前向きになり、経営戦略の一角を担ってくれていると自負しています」

と、三位一体経営が浸透し始めていることに自信を見せた。

そして、今日「VI-AD」に代表される三菱電機のスローガンも三位一体経営から派生したものであり、名付け親も野間口である。このVI-AD戦略は、流行り言葉となった「選択と集中」と同義語のように聞こえるが、本人の口からは異なるニュアンスの答えが返ってきた。

「私は社長時代に選択と集中という言葉はあまり使わず、強いものをより強く、を口癖にしていました。こうすればこう脱皮できる、こう飛躍できるという視点で技術を深掘りし、事業を大きくすることによって新たなチャンスが生まれる。その結果として、新しく事業を起こすもの、あるいは撤退するものの選別も、よりはっきりしてきたわけです」

そう語る野間口が、「強いものをより強くするという、わが社再生のカギの一つだった」と指摘する事業に、パワー半導体がある。