普天間基地の移設問題も、市街地に隣接、ヘリが墜落したりして危ないからどこか近くの代替地に移設しましょうという話で、そもそも沖縄の負担軽減云々という問題ではなかった。

日本は憲法上、攻撃力を持つことはできない。そこで旧自民党政権は国民には「専守防衛」と言いながら、米議会の承認を必要とせず、米大統領の命令で動く米海兵隊という大きな攻撃力を沖縄に置くことで抑止力にしてきた。

5年ほど前、アメリカが沖縄の海兵隊をすべてグアムに撤収しようとしたとき、「このままいてください」と言ったのは自民党政権。今の場所は具合が悪いから、こちら(辺野古)に移ってくださいとお願いしたのである。また防衛庁(当時)は、いずれ海兵隊がグアムに集結することを知りながら辺野古に巨大な代替地をつくらせている。これも返還が決まっている嘉手納の後に使うことを想定し、「いずれは自分たちの!」と考えているからにほかならない。だから鳩山由紀夫前首相が突然、「最低でも県外」と言い出して一番ビックリしたのはアメリカだったはずだ。

普天間のような問題が複雑怪奇にこじれてしまうのは、国防や安全保障の問題をタブー視してきちんと議論してこなかったからである。つまり、「海兵隊という攻撃力が日本からいなくなったらどうするのか」という最悪の事態を考えてこなかったのである。

思えば民主党が政権をとったときが千載一遇のチャンスだった。「我々は米軍に出ていってもらうことを前提に選挙を行い、7割の議席を得た。あなた方は出ていくべきで、どこに行くかも自分で決めてください」と最初に言えば、アメリカも襟を正して交渉の席を設けただろう。口先だけで腹が据わっていない外交だから、アメリカにバカにされる。もちろん外務省も防衛省も、裏では民主党の足を引っ張ることに大いに暗躍したに違いない。

全人口の1%強しかいない沖縄に「国家税収の3%を渡すから、自分たちで経済も外交も防衛もやってみろ」と下駄を預けたらどうなるか。国から頼まれるから約束違反と騒ぐのであり、自分たちで自分たちの将来に関するすべてに決定権があったら、沖縄の人たちは頼りにならない自衛隊より米軍に「いてください」と言うかもしれない。

こうした発想をするための訓練が教育のベースにないから、基地問題のような課題がいつまで経っても堂々巡りで、際限なく金もかかるのだ。

(小川 剛=構成 AP/AFLO=写真)