「自分がどういう役割を担えば居場所があるのか、を考えました」
「自分がどういう役割を担えば居場所があるのか、を考えました」

「当初、英語で言いたいことも言えず、相手の言ってることもわからない時期がありました。言葉が出ないつらさですね。ものすごくもどかしかったんです。結局、自分の言いたかったことは最後まで伝えられなかったと思うし、不完全燃焼のまま日本に帰ってきてしまって……」

帰国した瞬間、使い慣れた言葉で思いが伝わる喜びを心の底から感じたという。伝わらない苦しさ、伝わる喜びを身をもって学んだ貴重な体験だ。

アナウンサーという仕事柄、番組の出演者の話が伝わるよう引き立てる役割も求められる。

「スタッフ側にいるということは、おもてなしをする側ですから、いらっしゃったタレントさんやスポーツ選手が何をしたいのか、何をしゃべりたいのかを第一に考えます」

が、あれこれ質問する前に、「真剣に聞くこと」が相手に気持ち良く話させるコツだという。

「事前準備を十分しておくと、その方の考え方や行動について関心が高まり、疑問も出てきます。こちらのモチベーションが高まると、相手の話をよく聞く姿勢になり、自然と気持ち良く話していただけるのではないでしょうか」

異文化に暮らした経験からか、出水さんはその場での自分の立ち位置を考える癖がついたような気がするという。

「米国にいたときは仲間内で会話の中心にはなれないけれど、グループの中でどういう人間だったら必要とされるのか、今この場で自分がどういう役割を担えば居場所があるのか、と無意識に考えていたと思うんです」

持ち前のセンスもあるはずだが、異文化に身を置いた経験もあって、そういう感覚がさらに鋭くなったのだろう。もう一人の自分が自分の立ち居振る舞いを冷静に観察し、自分で自分を見失わないようにしている。それが出水さんの“ポジショニング上手”につながっている。 

(鶴田孝介=撮影)