まず、「高い目標を立てる」「それに向かう新たな発想を取り入れる」の2つを明らかにした。目標はプロジェクトのゴールであり、イノベーションを起こす手段でもある。ここで間違えると、部分最適に向かう過去の轍を踏む。「目標」をどう設定するのか。

キーワードは「二律背反」だ。

「例えば半導体部門は、新開発の半導体は大量に、かつ早く売り抜きたい。残念ながら東芝のデジタルプロダクツグループ(以下DP)のパソコン、テレビのシェアはそう高くないので、ソニーさん、シャープさんにも半導体を売る。一方、DPからすれば、すごい半導体を開発したら他社には売ってほしくない」(豊住氏)

従来は東芝“全体”として何が最適かを考えるセクションがないため、こうしたケースを認識する場もなかった。

「コストや品質にしわ寄せさせず、二律背反するものを両方解決しなければいけない。そういうきわめて本質的な課題への挑戦がi cubeです」(岸本憲治・i cubeプロジェクト推進室参事)。とても両立しそうにない組織どうしの二律背反を、オートマティックな解決ツールに頼らずに「何とかする」のである。イノベーションはこの理不尽とも思える「圧力」から絞り出されるという発想だ。

この場合、カンパニー間だけで干渉し合うより、グループ全体の中でi cubeと名付けて進めることで、解決のためのプロジェクトの立ち上げがより容易になる。そこでは、トップの指導力が不可欠だ。

「確かにトップダウンが強くなりました。カンパニー社長は、他のカンパニーには口出ししづらい。先の例でいえば『セミコン(半導体)さん、それやめてうちにくださいよ』と言えるのは酒の席ぐらい。そういう問題を社長が認識し、『解決のためにこういうプロジェクトをやれ』と指導が出た、という感じ。場合によっては人、モノ、カネも投入する、というバックの存在が明確になる」(豊住氏)