冒頭の例にある「性的な噂話」は、環境型セクハラに属する。これが厄介なのは、「セクハラ判断で相手の主観が重視される傾向が強い」という点だ。そもそも被害者の主観が重視される傾向のあるセクハラだが、「環境型」は「対価型」と異なり、社内での立場関係などといった前提が特になくても生じうることから、主観重視の傾向はさらに強い。

この主観重視という基準は、多くのセクハラに苦しむ女性を助けてきたが、問題点もある。まず、純粋な恋心が不法行為とされてしまう可能性がある点。男性上司が年の離れた女性部下に恋をし、電話やメールでアプローチするも、相手からはそれがセクハラだと責任を問われ、上司が自ら命を絶ってしまったケースが実際にあった。たとえ、常識の範囲で、異性としてのアプローチを行ったとしても、上司と部下という立場関係に加えて、部下からの訴えがあれば、法的責任を問われる可能性があるのだ。

また、セクハラを過剰に意識すると、

「萎縮効果によって、かえって社内のコミュニケーションが阻害されるという問題もある」(同)

職場の女性に「綺麗だね」など、容姿に関する言葉をかけたり、肩を軽く叩いたりすることはセクハラとなる可能性があるが、一方でこうした褒め言葉や励ましで喜ぶ女性社員がいることも確かだ。

加えて、被害者の主観で正否が決まる点を悪用し、会社幹部などを陥れる目的で、「セクハラ事件」を起こすといった事例も見られるようになった。「セクハラという概念がインフレ化し、世間での価値や信頼性が下がると、本当に保護しなければならない被害者を救えなくなる危険性がある」(同)。

では、デートに誘いたい異性が職場にいる場合は、具体的にどうすればいいのか。野暮で無粋かもしれないが、「無理に誘ってるわけじゃないからね」など、相手の自由意思を確認する作業が不可欠だ。もし誘いを断られても、そのことを理由に職場で無視したり、配置転換したりするような不利益を相手に与えることは厳禁である。

(ライヴ・アート= 図版作成)