高度情報化が進めば進むほど、人々の日常は多忙になり、より精神的に休まる暇がない。その結果、多くなるのが心身症。“ストレスが原因となって身体疾患が起きてくる病気”をいう。代表疾患のひとつが、胃・十二指腸潰瘍である。その名のとおり、胃や十二指腸に潰瘍ができ、空腹時に胃部がキリキリ痛む。職業人の約10人に1人が悩まされている。

潰瘍ができるメカニズムは、天秤を考えてもらうとわかりやすい。天秤の一方が防御因子、もう一方が攻撃因子。防御因子とは胃の粘膜、粘液、そして胃壁に栄養を送る血流を指す。攻撃因子は胃液である。

攻撃因子が強くなると“振り子”は攻撃因子側に振れ、防御因子が弱まってもやはり攻撃因子側に振れる。このように攻撃因子側に振り子が振れるときに潰瘍ができ、防御因子が弱まってできるのが胃潰瘍、攻撃因子が強くなってできるのが十二指腸潰瘍である。

ストレスによって胃液が多くなったり、逆に胃粘膜が弱くなることで、このようなメカニズムがおきる。

さらに、ストレス以外に、胃内に住むヘリコバクター・ピロリ菌も大きな要因である。ピロリ菌が胃に住みついていると、胃内は常に慢性胃炎状態にあるため、潰瘍になりやすい。

日本人の50代以上にはピロリ菌の感染者が多く、何と80%を超える。ところが20歳前後では10%以下と、衛生的な環境になったこともあり、感染者数が少なくなってきている。

とまれ、胃・十二指腸潰瘍になり、薬物治療で治っても、再発が起きてしまう場合は、ピロリ菌が胃内に住みついていないかどうかを調べてもらうことが大事である。ピロリ菌が住みついていた場合には、「除菌治療」を受けることによって、再発はグ~ンと抑えられる。その科学的な根拠となる研究報告も数多くなされている。だからこそ、ピロリ菌の除菌治療には保険が適用されている。

除菌治療は「3剤併用療法」と呼ばれるもので、胃酸分泌を抑える「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」、抗菌薬の「クラリスロマイシン」「アモキシシリン」の2種類の計3種類。3剤を朝、夕食後の2回服用。これを1週間続ける。それから4週間後に、除菌ができたか否かを検査して終了。除菌成功率は80~90%である。再発に悩む人はぜひ、医師に相談すべきである。

 

食生活のワンポイント

胃・十二指腸潰瘍の生活では、何よりストレスに強い精神・身体をつくることが大事である。

上手なストレス解消として、「十分な睡眠」「スポーツ・趣味」などは大事だが、それとともに、食事もかなり重要な位置を占めている。

胃・十二指腸潰瘍の治療時の食事は、お粥やうどんといった消化のよいものを中心に、ビールなど炭酸系のものやカフェイン飲料、刺激の強い香辛料などは極力控えるようにする。

予防としては、ストレスに強くなる食事を摂取することだ。それにはビタミンB1、カルシウム、DHAなどを勧めたい。

●ビタミンB1
 ストレス対抗ビタミンの代表。神経の働きを正常に保ってくれる。納豆、大豆、ゴマ、焼きのり、干し椎茸、豚肉、ホウレン草、そば、玄米などに多い。

●カルシウム
神経の緊張やイライラ感を緩和する働きがある。ひじき、煮干し、丸干しうるめいわし、牛乳、パルメザンチーズなどに多い。

●DHA(ドコサヘキサエン酸)
青背の魚に多く含まれ、神経細胞に入ると情報伝達がスムーズになり、ストレスに強くなる。
加えて、ゆっくりよくかんで食べることをぜひ、実行してほしい。