日米を代表する高収益企業が実践する革新メソッドを紹介。好業績企業はどのような人材研修を行っているのだろうか。研修の現場をリポートする。

75期連続増収企業が女性営業の底力を引き出す方法

ジョンソン・エンド・ジョンソンは1932年以来、75期連続で増収を達成し、二桁成長を続ける驚異的経営で知られるグローバルカンパニーだ。目標数字の達成にシビアな同社が力を入れるのが女性営業職の活性化である。

今や女性の活用、戦力化は企業の成長を左右する大きな鍵を握っているといってもいい。ただし大量に採用し、従来のやり方で育成さえすれば力を発揮するというほど単純ではない。結婚・出産・育児といったライフイベントに伴う退職リスクはもとより、圧倒的多数を占める男性管理職の先入観が壁となりマネジメントに弊害が出ることを苦慮している企業が多いのが実態だ。

直属の上司と部下を違うテーブルに配置。ついホンネがこぼれる。

直属の上司と部下を違うテーブルに配置。ついホンネがこぼれる。

女性営業職にいかに力を発揮してもらうか。同社のダイバーシティプログラムの1つであるWLI(Women's Leader-ship Initiative=女性のリーダーシップ推進)活動では、昨年から女性営業職にフォーカスしたグループ合同セミナーを開催している。今年は「女性営業の活躍を妨げるものを探る~『女性は営業に向かない』は思い込み!? あなたの思い込みを暴きます~」と題する講演とワークショップを開催した。

参加者はグループ企業の営業職を中心とする女性84人と管理職中心の男性64人。狙いはタイトル通り「女性は営業に向いていないという一般的思い込みを払拭し、女性営業の活躍を妨げるのは何か、女性営業が長く働き続けるために必要なことは何かを本人と男性管理職が本音で議論し、互いに気づきを与えること」(古川裕子ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカルカンパニー広報部マネジャー)にある。

セミナーの出席者は4~5人ずつ約30テーブルに分かれて着席。それぞれにリモコンが渡され、講師の質問に対するYES/NOの回答が前方のスクリーンに映し出されるなど講師と参加者の双方向による講演が行われた。女性営業職と管理職の意識のズレが浮き彫りにされ、場内がどよめく場面もあった。

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事前に実施されたアンケート調査をもとに女性に対する男性の先入観が披露された。たとえば「女性は感情の起伏が激しい」「女性は突然退職する」「女性は論理的に思考できない」「女性はセクハラに過剰反応する」といったものだ。これら男性管理職側の先入観について「実際に感じる」と回答した女性は73%も存在した。さらにその先入観は(単なる思い込みであって)正しいとは思わないという女性が43%もいた。

これに対して、この「先入観は実際のことである」と回答した管理職が52%もいるなど男性上司と女性部下の意識の違いが突きつけられた格好になった。

さらに衝撃的な回答が相次ぐ。会場の管理職に「チームに女性は要らない(男性チームがよい)」という設問を投げかけたところ、12%がイエスと回答した。この回答に女性側からも「えー、なによーみたいな反応もあり、結構盛り上がった」(古川マネジャー)という。

また、同じ女性営業職でも仕事に対する意識の違いがあることも明らかになった。「将来管理職になりたいか」という質問にイエスは44%、ノーは56%と2つに分かれた。さらに「将来社長を目指したいか」という質問ではイエスが28%、ノーが72%だった。

今回のセミナーにはグループ企業のヤンセンファーマの女性MR(医薬情報担当者)も数多く参加している。現在グループを挙げて女性営業職を増やす活動に注力しており、ヤンセンファーマのMR職約900人のうち女性は20%を占める。しかも近年の新規採用者は男女比同数であり、徐々に女性比率も高まっている。しかし一方では「結婚や出産、パートナーの転勤を機に退職する女性も少なくない。管理職に登用される年齢に差しかかる頃には絶対数が少なくなる」(古川マネジャー)傾向にある。J&J全体の女性管理職比率は20%を超えるが、営業の女性管理職は3人、ヤンセンファーマはゼロという状況にある。