一方、営業所で強調しているのは「営業は、一人ひとりがわが社の顔だ」という点です。

たとえばエレベーターの営業担当者がお客さまのところで、ビル全体の空調や照明、セキュリティ、省エネ等について相談を受けることがあります。その場合、自分の担当外であっても、「三菱電機にはこういういい商品があります。すぐ専門の担当者を連れてきます」というように、「連携営業」をしてほしい。お客さまにとっては、その担当者が三菱電機の「代表」なのです。「営業はわが社の顔」とは、そういう意味です。

社員全体に、ことあるごとに呼びかけてきた言葉には「Changes for the Better」があります。これは以前からわが社にあった言葉ですが、私はこの言葉から「継続的な改善」の大切さを汲み取っています。ベストで立ち止まってしまうのでなく、ベターの積み重ねが大事だということです。

この言葉に出合ったとき、私は、これはわが社の製品をアピールするための言葉であると同時に、社員一人ひとりが自らに呼びかけるべき言葉でもあるなと感じました。そこで、以降、折に触れてこの言葉を強調しているのです。

また、私は研究所の時代から今日まで一度も「ヒット商品をつくれ」とは言わないできました。意識してヒットを狙うのではなく、自然にヒットが出るような体質づくりこそ大切だと考えているからです。常に技術を磨き、工夫し品質改善を重ねる。足腰を鍛え、鋭いスイングのできる筋肉や技術を蓄える。土壌があればヒットは自然に生まれるはずです。

ヒットは続かなければ意味がありません。一発ヒットを狙って研究開発した打ち上げ花火のような特定商品に頼るのではなく、ヒットが自然に生まれる土台づくりこそ大切です。会社全体を強くすることに努めるべきなのです。私は若いころ、研究所で何度もヒット商品が生まれる現場に居合わせました。そのときの体験から、そう考えているのです。

いま紹介した2つのこと、「Changes for the Better」と「ヒットを出せとは言わない」には、実は共通点があります。それは、会社にとって何より大事なのは、設定した目標を達成して満足することではなく、継続的な改善を進めることだという点です。

私自身、経営者として社員に向かってメッセージを発する際にも、その「継続」を大事にしています。つまり、メッセージの基本コンセプトは変えない。「強いものを、より強く」「ベストでなく、ベターの積み重ね」「花見酒に酔うな」……言葉はさまざまでも、同じことを継続して言い続けているのです。

私のメッセージの根底にあるものが、社員一人ひとりにとって体質やDNAとなってくれるまで、これからも同じことを話し続けようと思っています。 

(小山唯史=構成 小原孝博=撮影)