ヒトラーに例えるということ

髪は刈られ目隠しをされた人たちが、次々に列車に載せられていく。中国国内のもので、連行されているのはウイグル人だとされる動画がネット上で拡散され、英国メディアBBCはこの動画を駐英中国大使に突き付けて説明を求めた。7月19日のことだ。

司会者は「西側の情報機関がウイグル人を輸送している場面だと認めた」と述べているが、真偽は不明だ。だが司会者は「こうした映像を見て欧米の私たちが連想するのは1930年代のドイツで起きた一連の出来事です」と述べている。つまり、ナチスによるユダヤ人の強制収容所送りを連想すると非難しているのだ。中国共産党がナチスなら、習近平はヒトラーに相当することになろう。

2017年10月、新疆ウイグル自治区・カシュガルにて。3人のウイグル人男性が会話をしている後ろには中国国旗がはためいている
写真=iStock.com/Christian Ader
2017年10月、新疆ウイグル自治区・カシュガルにて。3人のウイグル人男性が会話をしている後ろには中国国旗がはためいている ※写真はイメージです

安倍晋三、山本太郎、橋下徹、小沢一郎、菅直人……。彼らの共通点は何だろうか。実は、いずれもヒトラーに例えられる、あるいはヒトラーになぞらえて批判されたことのある政治家である。

その理由としては独裁的、独善的に見える振る舞い、異論に耳を貸さない態度、国民の権利を押さえたいと思っている、国民に嘘を言っても屁とも思わないなど、論者によってさまざまな要素が挙げられるが、一番大きなものは「大衆扇動的である」という点だろう。特に山本氏、橋下氏はその演説の饒舌ぶり、聴衆が思わず引き込まれる話しぶりがヒトラーに例えられる。中には、否定的な意味ではなく「ヒトラーになれる」と評するもの(石原慎太郎による橋下評)まであった。

そもそもヒトラー的に見える手法の一部が重なっているからといって、その人物を「現代の・日本のヒトラーだ」と批判すること自体が、あまりに安易であり陳腐化しているといえる。ヒトラーやナチスはこれを出されたら評価の余地はない絶対悪のカードだ。もちろん、危機の端緒を敏感に感じ取って警戒を鳴らすのは時に必要だが、そうした最凶のカードも「ここぞ」というときに出すのでなければ、効果は薄まっていく。日本中、政界中あらゆるところにヒトラーがいるという話になりかねないからだ。