世界的な金融危機を受けて、高値に沸いた欧米の現代アートオークションに陰りが見え、本来の目利きの世界に回帰しつつあるという報道があります。11月19日にNYで開催されたクリスティーズの現代アートオークションでも売り上げは50%に留まったそうです。ただ、現実的には極度な熱狂からようやく平常に戻ったという印象です。

最近、関係者に聞いてみると海外で開催されたオークションでは、価格が高騰する落札ケースは減ったものの、「エスティメイト」という、オークション会社が査定した価格で購入しているケースや、落札されなかった作品でもオークション直後に、持ち主と協議をしてエスティメイトより安い価格で購入というケースが増えているそうです。その意味では、狂騒のオークションが一段落し、逆に正当な価格で作品を手に入れるチャンスが来ていて、投資価値はそのまま変化していないと言えそうです。

過去のアートバブルと言われた90年代のルノワールやゴッホといった億単位の名画が最終的に日本からヨーロッパのコレクターへ戻っていったことやカシニョールやブラジリエのリトグラフがほとんどが死蔵されています。こうした点も踏まえて、投資としてのアートを考える時のポイントを考えてみたいと思います。

私は欧米の作品より日本のアート、それも現代アートを勧めたいと思います。1つには、日本の現代アートは「産地直送」であること、です。制作のもっとも近い場所にいることはコレクターにとって有利であり、大作でも海外から運ぶより割安です。

2つ目は、日本の現代アートはまだ世界市場で流通し始めたばかりという新顔だということです。それは一見、デメリットのように感じるかもしれませんが、中国に続いてアジアでの新たな才能の発掘が進んでおり、可能性が大きいのです。

2006年7月29日から10月22日まで弘前市の吉井酒造煉瓦倉庫で開催された奈良美智+grafによる「A to Z」展の小屋の中に展示された奈良さんのドローイング。
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2006年7月29日から10月22日まで弘前市の吉井酒造煉瓦倉庫で開催された奈良美智+grafによる「A to Z」展の小屋の中に展示された奈良さんのドローイング。

3つめは、本当に魅力的でおそらく将来性がある作品が、まだ一握りのコレクターの間でしか、知られていない、という点です。評価が定まった作品にしか手を出さない保守的なコレクターは、海外のアーティストの作品を手にして満足していますが、実は宝石の原石たるアーティストが身近にいることに気づいていないのです。

日本の現代アート作品のいくつかの価格の変遷を1996年頃と現在と比較して見てみましょう。一番、有名な例は、奈良美智さんの作品です。1996年に小山登美夫ギャラリーで絵本の原画展を行いました。同じ頃、名古屋のギャラリーで見た奈良さんの初期のドローイング作品は確か、1点がわずか5000円くらいだったと記憶しています。今、その原画はいくらでしょうか。もちろん作品によるのですが、ウェブギャラリーのタグボートの価格によれば、奈良さんのドローイングの標準的価格は30万円~70万円くらいのようです。つまり、上昇率は12年間で60倍から140倍となっています。

私が駆け出しの頃、ギャラリーにお願いして分割払いで購入した思い出の森村泰昌「駒場のマリリン」。本当は正しい作品タイトルがあるのだが、通称のまま。
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私が駆け出しの頃、ギャラリーにお願いして分割払いで購入した思い出の森村泰昌「駒場のマリリン」。本当は正しい作品タイトルがあるのだが、通称のまま。

自分自身が古今東西の名画になりきってしまう作風で世界に認められている森村泰昌さんの作品はどうでしょうか?やはり96年頃、55万円であった作品は、現在、250万円から370万円くらいがオークションのエスティメイトになっているようです。5倍から7倍です。奈良さんほど値上がりが極端ではないのですが、それは96年当時から森村泰昌さんが世界的に活躍し、既に評価が高かったから、です。

次に最近世界的に話題を提供している、村上隆さんを見てみましょう。やはり96年に村上さんが小山登美夫ギャラリーで個展をした頃、作品の価格は20万円から40万円くらいだったと記憶しています。最新の彼の新作絵画は1億円ですので、250倍から500倍に上昇したことになりますね。

現在、世界的な人気のある3名のアーティストの例を取り上げましたが、彼らのように世界で評価されるところまで至っていなくとも、実は日本の現代アーティストの作品というのは、若手を含めて非常にクオリティーが高いと思っています。つまり、価格は格安なのです。