実はリチーミングに対して、精神医学の分野からも関心が高まっているのだ。アルコール依存症治療の現場で解決志向の援助法を活用している、成増厚生病院の東京アルコール医療総合センター長で精神科医局長でもある垣渕洋一医師は次のように語る。

「人間が行動や思考の変化を起こす際の条件は、(1)変化への希望、(2)変化を起こさせる能力・自信に関する楽観的な見通し、(3)変化する利点、(4)変化しないことへの心配・懸念、(5)変化に必要な実際の行動の具体的な計画や考えです。これらが揃っていないと『上から指示されても現場が動かない』『取り組んでもうまくいかず、元に戻ってしまう』ことが起きる。しかし、リチーミングの12のステップは、この5つの条件をすべて満たしています」

特に垣渕医師は、リチーミングがチームだけでなく個人に対しても高い効果を期待できる点にも注目する。そして、飲酒すると止まらなくなるのが問題とわかっていても、飲酒しない生活を想像できずに断酒できないでいるアルコール依存症の人に、飲酒をやめることのできた元依存症の人に会ってもらい、断酒生活の理想像を描くことを勧めている。具体的な理想像を自分の目で見ることで、「変化=断酒」することの価値を見出すことができて、ゴールの設定など他のステップへ進めるようになるからである。

さらに垣渕医師は「リチーミングを通して仕事への動機づけがなされて、チームとして助け合いが盛んになると、ストレスが減り、うつ病の予防に役立つと考えられます」という。先頃の厚生労働省の発表では、09年度にうつ病などの精神障害になって労災認定を申請した人の数は、前年度より209人増え1136人で、過去最高を記録している。メンタルヘルスの面からもリチーミングに対する期待が膨らむ。

翻って考えてみると、これまで日本企業の現場における人材の再活性化では、コーチングが重んじられてきたように思える。しかし、コーチングの対象はあくまでも個人であり、そこにおいてチーム全体の方向づけは行われない。つまり各メンバーがばらばらにコーチングを受けることで、好き勝手な方向へ動き出すリスクがともなう。

個人とチーム全体のモチベーションアップをうまくリンクさせ、問題解決という一つの方向へ導いていくリチーミング。いま、そこに可能性を感じ始めた人は少なくないのではないか。