さらに、こう続ける。

「いまの話で一番大事なところは、シェアが世界の1%ということです。私どもは、他社のように600万台、700万台を売る会社ではありません。1%の会社が1%の存在感や魅力を維持していくには何をすればいいか。スバルの個性をどう守り、差別化していくか。まずはそれです」

いや実に、課題の把握は明確。説明も明快だ。富士重工の自動車部門のブランドは「スバル」である。スバルは入門車から高級車まで、フルラインの品揃えがあるわけではない。主力車種は「レガシィ」「フォレスター」「インプレッサ」の3車種。水平対向エンジンとAWDという四輪駆動など、個性的な技術で1%の存在感を発揮してきた。水平対向エンジンを採用しているのは、世界広しといえどもスバルとポルシェだけだ。

吉永は「差別化と言葉でいうのは簡単。具体的には、それは何か」と、突き詰める。中期経営計画で出した答えは、「安心と愉しさ」の提供である。例えば、衝突回避システムの「アイサイト」。前方の障害を検知すると自動的にブレーキがかかる「ぶつからない車」だ。

「他社にはほとんど搭載されておらず、差別化の最たるもの。展開車種を増やし、海外にも出そうと思っています」

エンジンからモーターへ。液体燃料から電気へ。新興国の勃興ばかりでなく、自動車産業には、その誕生以来、最大の技術革新の波が押し寄せている。電気自動車や燃料電池車の開発には、膨大な研究・開発費がかかる。スバルには荷が重い。だから、「環境対応など先進的なところは、トヨタさんとの提携の中で道筋をつけたい」と、ここでも方針は明快だ。

トヨタとは、現在、水平対向エンジンを搭載したFR(後輪駆動)スポーツカーの開発に取り組んでおり、12年春には全世界に向けて両社で売り出す。吉永は「非常に楽しみ」と、胸を躍らせている。

吉永は、かつて富士重工が大赤字を出した際の再建計画、米国販売会社の買収、GMとの資本提携解消に伴うトヨタとの提携と、同社の命運を左右する出来事に、ことごとく携わってきた。どうして白羽の矢が立ったのか。

「生意気だった。ある部分のびのびとした気質のまんまここまできちゃっている。それを通してくれたことに感謝すると同時に、自分はいまこの会社をそうしたいと思っている。それで上の人たちにはいっています。『潰すなよ、いいたいことをいう人は財産なんだから』と」

中国では販売台数を現在の6万台から、18万台に増やすことを目論んでいる。このため富士重工は、中国での現地生産を計画中だ。だが、中国進出では後発。中国政府の対応も、外資歓迎という姿勢から転じている。

震災後、「ダメだよ、負けちゃ、という気持ちが非常に強くなった」という。

「彼を知り己を知れば百戦殆あやうからず」を地でいくネアカの闘将が、まずは万里の長城越えに挑む。

※すべて雑誌掲載当時

(門間新弥=撮影)
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