なぜ海外資金が流入しないのか

海外の機関投資家に迎合したルールづくりがもたらした結果
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海外の機関投資家に迎合したルールづくりがもたらした結果

これらの戦略的失敗は、すでにリーマンショック以前に起こっていたが、リーマンショック後もそれを改善しようとする動きはなかった。あるいは、これらの改革によって弱っているところにショックが襲ったために、日本企業の本源的価値は大きく毀損されたとみるべきであるかもしれない。これでは、東京市場の魅力はますます小さくなってしまう。投資資金が流入しなくなるのは、当然であろう。所期の目的が実現できなくなってしまった。グローバルスタンダードに合わせないと海外の投資家を呼び込めないという強迫観念にとらわれて、欧米の投資家が歓迎しそうな国際標準と思われるような制度が次々に導入されてしまった。その結果、東京市場上場銘柄の魅力がなくなってしまったのである。

なぜこのような失敗が起こったのか。最大の原因は国際化戦略を立案し実行する担い手がいなかったからである。いなかったわけではない。適切ではない機関が担い手になってしまったというべきか。

東京市場の国際化戦略の主役となったのは、監督当局である金融庁と、市場の主宰者である東京証券取引所であった。監督当局は金融危機や不祥事を起こりにくくするという統制が本来の任務であり、上場企業の収益力が高まるかどうかは主たる関心事ではない。もう一つの主役である東京証券取引所は株式会社であり、自社の利益を考えれば、大量の売買を繰り返す機関投資家の意向を尊重せざるをえない。バフェット氏のように長期保有の株主は、上場企業にとってはよい投資家だが、取引所にとってはそれほどよい顧客ではない。多くの手数料を落としてくれるありがたい顧客は、大量の売買を反復する機関投資家である。こうした投資家を考えた制度づくりを証券取引所が主導するのは、ある意味で当然である。大量の取引を反復する機関投資家が主たるプレーヤーになってしまった結果、いくつかの不幸な結果がもたらされた。まず、証券市場は本来の機能を果たせなくなってしまった。

第一は、市場本来の機能を果たすことができなくなってしまったことである。少数の機関投資家の判断が株価に大きすぎる影響を及ぼしてしまう。市場の本来の機能は、多数の人々の多様な判断を集約するという機能である。ところがプログラム取引で大量の株式を売買する投資家が市場を支配してしまった。その結果、日本の証券関係者が自嘲的にいう「株価は夜決まる」という現象が起こった。日本の企業について十分な知識を持たない人々が価格決定の主導権を握ってしまったのである。その結果、株価は企業の業績や戦略と無関係な要因によって決まるという現象が起こってしまった。円高になれば、株は下がるという単純な動きが加速されてしまった。

日本の金融市場のグローバル化のためには、競争戦略の定石に立ち返ったアクションが必要である。何よりもまず、日本の市場の独自性を高めること。もう一つは、上場企業を元気にするような制度づくりを行うこと。しかし、残念なことに世の中はそのような方向には進んでいない。企業の元気をさらに奪うような公開会社法の制定への動きが出ている。

企業の投資意欲を削ぐような会計制度、IFRSの導入も画策されている。日本の株式はさらに魅力を失うだろう。海外の資金が流入しないのは当然である。