世界の脅威は新型コロナウイルス感染症だけではない。アフリカ、中東、インドなどでサバクトビバッタが大量発生し、農作物が大きな被害を受けている。僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳氏は「日本も歴史上数多くの蝗害こうがいに見舞われ、あらゆる対策をしてきた。害虫発生は農業被害だけでなく、交通インフラは麻痺し、人、モノ、カネの流れが途絶えさせるおそれもある」という――。
イナゴの群れ
写真=iStock.com/pawopa3336
※写真はイメージです

コロナ禍の後はバッタ禍、最大1000億匹が押し寄せ農作物を根絶やし

いま、世界各地では人類の手に負えない2つの脅威にさらされている。ひとつはコロナ感染症の拡大だ。そして、もうひとつはバッタの大量発生である。

感染症はワクチンなどによる封じ込めが期待できる。だが、バッタは制御が難しい。ひとたびバッタに襲われると農作物は食い荒らされ、食糧難に見舞われるだけでなく、物流も途絶える。

日本はしばしば、バッタ被害(蝗害)に見舞われていることをご存知だろうか。その痕跡を辿りながら、ウイルスの次なる災厄への、心構えにつなげていきたいと思う。

コロナウイルスの感染が中国・武漢で広がり始めた今年初め。アフリカ・ケニアでは、ここ70年来で最悪レベルのバッタの大発生に見舞われていた。このバッタはサバクトビバッタという種類で、自分の体重と同じ量の植物を1日で食べてしまうという。

数100億~1000億匹という途方もない数の群が押し寄せ、農作物を根絶やしにしてしまう。国連の報告では、1平方キロメートルのバッタ4000万~8000万匹が押し寄せると、1日で3万5000人の食料を食い潰してしまうという。バッタは牧草も食い荒らすので家畜へも被害が及ぶ。バッタの死骸は水も腐らせる。各地ではコロナ禍とバッタ禍との「二正面作戦」となっており、数千万人が食糧危機の局面にあるという。

サバクトビバッタの日本襲来の可能性は低い

今回のバッタの大量発生は、数十年で最大規模。原因はこの2年ほどで巨大サイクロンがいくつも発生して降水量が増え、バッタの餌となる植物が増加したことである。バッタは農作物を食い荒らしながら、アラビア半島からインドへと移動。中国にも迫る勢いだが、さすがに海を渡って日本にやってくる可能性は低いようだ(※)

※農業生物資源研究所などで長年バッタの生態を研究してきた田中誠二氏は3月16日放映のNHK-BS「キャッチ! 世界のトップニュース」に出演し、サバクトビバッタの日本への影響について「サバクトビバッタは、寒さのため1000メートル以上の山は越えられないと言われています。パキスタンと中国の国境は、5000メートル級の山が連なる山岳地帯ですので、中国のほうに行くというのは考えにくい」と答えている。

だが、日本国内に目を向ければ、バッタをはじめ、しばしば害虫による農作物の被害が発生し、食糧難に陥らせてきた過去がある。

日本人と虫との戦いの痕跡が各地に残されている。いくつか紹介しよう。