DRAMから学んだNANDの大型投資

西田が原子力事業とともに東芝の未来を支える大きな柱とし、3年間で1兆円の投資を行うのが半導体事業である。

「HD-DVD」撤退記者会見にわざわざ合わせて発表されたNAND(ナンド)型フラッシュメモリーの生産増強計画を打ち出した。その内容は新工場を2棟同時に着工し、総額1兆7000億円以上の投資を行うという西田のアグレッシブな戦略だった。

2007年度NAND世界シェア:上位3社で9割近くを占めるが、投資競争は年々激化。<br>
NAND売上金額推移:07年3Q以降NAND価格急落で、業界の売り上げは下降。
グラフを拡大
2007年度NAND世界シェア:上位3社で9割近くを占めるが、投資競争は年々激化。 NAND売上金額推移:07年3Q以降NAND価格急落で、業界の売り上げは下降。

西田の視線の先には、ポスト「Blue-ray」がある。例えばビデオ・カメラの記憶媒体で、その本命になりつつあるのが、「NAND」型フラッシュメモリーである。一敗地にまみれた「HD-DVD」のかたきを「NAND」型フラッシュメモリーと小型「HDD」で討つ。1兆7000億円もの大型投資はその意思表示にほかならなかった。

「DRAM(ディーラム)」。東芝の半導体事業に携わる者たちにとって、この4文字は過去の悪夢を思いださせる。DRAMとは、書き換え可能な半導体記憶装置のことだが、02年に東芝は韓国、米国との低価格競争に敗れ、この分野から撤退した。現在ある東芝の半導体事業は、この失敗を総括するところから始まった。

なぜ東芝は「DRAM」から撤退せねばならなかったのか。社内にできた分析チームは喧々諤々の議論を行った。現在、半導体事業の責任者である、齋藤昇三(セミコンダクター社社長)もその中にいた1人だ。

「負けて初めて、何を実感した?」

質問に、齋藤は間髪いれず返答した。

「投資を怠り、渋ったことに尽きる」

現在の韓国メーカーとの差は、そのときに投資をし続けた韓国企業とそれをやらなかった東芝との差だ。これが東芝が得た、大きな教訓であったと齋藤はいう。

齋藤によれば、半導体投資を畑違いの人間に説明するのは難しいという。いつもトップに対しての説明には、技術を翻訳する言葉の問題がついて回った。その点、西田は半導体とは切っても切れないパソコン出身で、意思の疎通は今までの数倍の早さに変わったという。

西田は半導体や原子力などの主要工場に年2回以上足を運ぶ。例えば、半導体工場に行くときには、必ず最新の半導体技術書を読み込んでから、工場に乗り込むのだ。時に質問された技術者が答えに窮するような場面もある。