数年で2兆円を超える「愛媛船主」の市場

商船三井の歴史

愛媛県今治市波方町――「海山城」に登ると、のどかな瀬戸内の眺望が広がる。来島海峡に島影が連なり、「しまなみ海道」の下を船が行き交う。中世には村上水軍がここを拠点に暴れまわり、現代は「愛媛船主」と呼ばれる外航船オーナー約50社が集まる。その保有隻数は600~650隻、1兆5000億円の市場だ。あと数年で900隻、マーケットは2兆円を超えると予想されている。

近年、商船三井を含む大手海運各社は、有利子負債を削減するために自社船から用船へオフバランス化を進めた。愛媛船主に低コストで船を保有してもらい、それを借りるパターンが急増している。金融機関も、船主に自己資金ゼロのフルファイナンスを認める融資攻勢をかけた。欧州やアジアの海外船社も低利の円ファイナンスの強みを持つ愛媛船主に接近した。愛媛船主が保有する船の3~4割は海外船社の支配下にあるといわれる。

船隊増大の理由は、ファイナンス環境のよさだけではない。船主は船員を手配し、数年おきに船体をドックに入れて維持修繕を行う。近隣には建造量日本一の今治造船はじめ馴染みの造船会社がクレーンを並べる。船主と造船会社の絆は深く、融通も利く。船舶管理の面でも愛媛船主の信頼は厚い。すべては海と船に囲まれた環境がもたらす資産である。

創業85年の洞雲汽船は、昨年末、商船三井が新日鉄との長期契約に投入した鉄鉱石専用船「ぶらじる丸」のオーナーになった。その大きさは32万重量トン。世界最大級の鉄鉱石専用船だ。

洞雲汽船が保有する船は60隻。実際には不可能だが、もし現時点で売却すれば4000億円超は堅い。従業員わずか25名で、これだけの数字である。

将来的には税制面で船主が優遇されるシンガポールや香港に拠点を移すことも視野に入れているのだろうか。