ブランド「希釈化」には注意が必要

2009年2月、エルサレムで行われたイスラエル賞の受賞記念式典にて講演する村上春樹氏。国際的にも高い評価を得ている。

2009年2月、エルサレムで行われたイスラエル賞の受賞記念式典にて講演する村上春樹氏。国際的にも高い評価を得ている。

4つの価値を高めることで強いブランドを構築できるが、資産というからには負債も存在することに注意したい。例えばブランド連想では、必ずしもポジティブなノードと結びつくとは限らない。企業が個人情報流出事故を起こせば、コーポレート・ブランドが「個人情報流出」というネガティブなノードと結びつき、ブランド・エクイティを低下させる可能性もある。

少々古い事例だが、乳製品のトップブランドだった「雪印」は度重なる不祥事でブランドの資産価値が著しく低下。分社・再編後の市乳事業は新ブランド「メグミルク」の立ち上げを余儀なくされた。負債の大きさによっては、積み上げてきた資産も一気に消し飛んでしまうのだ。

アーカーのブランド論の中でもう一つ、注目しておきたい考え方が「ブランド拡張」だ。ブランド拡張とは、ある製品で成功をおさめたブランドを、別の製品カテゴリーや業種に用いることである。かつてホンダは二輪、四輪で米国に進出して成功をおさめた後、芝刈り機やマリンエンジン、除雪機などを「ホンダ」ブランドで展開した。

このように新製品の市場導入時に資産価値の高いブランド・ネームを利用すると有利なスタートを切ることができ、プロモーション費用も節約できる。ブランド拡張が役員会でもっとも支持されやすいといわれる所以も、ここにある。

ただ、ブランド拡張にもデメリットはある。新製品が失敗すれば本体まで傷つくリスクがあるし、成功したブランドに安易に頼ることで、新しいブランドを立ち上げるチャンスを自ら放棄しているという見方もできる。

希釈化も要注意だ。ブランドを広げると、焦点がぼやけて特性が失われ、ブランドの寿命を縮める恐れがある。その点では、大塚製薬の「オロナミンC」に拍手を送りたい。90年代、サイズで差別化されたビタミン飲料が他社から発売されてヒットしたとき、同社はオリジナルにこだわってブランド拡張をしなかった。「オロナミンC」がロングセラー商品となったのも、ブランドのイメージを守り続けてきたからである。

スタートダッシュを決めて、短期的に利益をあげるのか。それとも長期的にブランドを育成してロングセラーを狙うのか。それは企業の戦略によって違う。いずれにしても、企業はブランド拡張のメリット・デメリットを見極めたうえで、ブランド戦略を練る必要があるだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=村上 敬)