IT化を進めれば進めるほど、人と人とのコミュニケーションが密になる。そんな奇跡的な職場がある。雑談の中からアイデアが噴出し、組織横断的なプロジェクトが自然と生まれる職場を徹底解剖する。

話し声や笑い声が絶えない職場は生産性が高い

 IT技術の進歩に伴い、オフィス環境も日々進化を遂げている。フリーアドレスとユビキタスが融合した斬新なワークスタイル「クリエイティブオフィス」を、情報社会におけるコミュニケーション研究の第一人者、東京工芸大学芸術学部基礎教育・大島武助教授とともに検証する。

「クリエイティブオフィス」の開発元、日本コムシスITビジネス事業本部では、スタッフ全800名が、2004年からこのワークスタイルを導入している。事業本部のドアを開けると、フロアいっぱいに4人掛けテーブルがランダムに設置され、それぞれ自分のノートパソコンと携帯電話を手に思い思いの席に着き、仕事に取り組んでいる。パーティションがなく、机上はすっきりとしており、視界を遮るものはない。熱心にパソコンのキーボードを叩き、1人黙々と仕事をしている人もいるが、2人が並んで座り、1つのパソコンを見ながら話し合っているシーンが目につく。その後ろに立って2人の話に加わる上司らしき男性の姿もある。いくつかのテーブルには大型ディスプレーが備えられ、打ち合わせが行われているようだ。ザワザワとした話し声や笑い声がフロア内に響き、闊達な空気に満ちている。

「フリーアドレスが日本で広まったのは1995年頃です。当初は日中オフィスにいない営業マンに1人1台デスクを用意するのはもったいないので、デスクもパソコンも全社員の1~3割減らすといった、コスト削減が目的でした。しかし、日本コムシスがフリーアドレスを導入した最たる目的は、隣に座る人、すなわち仕事をする相手をその日の業務内容に合わせて選べるという点にあります」

こう語るのは、開発責任者の専務取締役ITビジネス事業本部長・潮田邦夫氏である。「ITビジネス、あるいは企画、マーケティングなどの知識創造事業においては、個人の資質に加え、知と知がクロスし、新しい知が生まれやすいオフィス環境がハードとITの両面で求められている。知が融合し、拡大し、新たな知を創出するためには、変化が常態化していなければならない。そのためにオフィス環境はどうあるべきかを探り、出した結論がこのスタイルです」

知のクロスはコミュニケーションによって起こる。それも、異質な知が交流を図ることで、隣同士の2人から3人、4人と広がって、「知のジャミング」が起こり、予期せぬ創造が生まれる。これからのオフィスは、部署にこだわらずこの即興を引き出せる環境でなければならないと潮田氏は考えている。
「知のジャミング」が始まり、そこから知識創造へとスピーディに変化していくには、フリーアドレスというハード面の整備だけではサポートは不十分だ。ユビキタスに情報を引き出せ、臨機応変に変更を加えていくことのできるインフラの整備も重要である。