新型コロナウイルスによる死者数は正確なのか。法医学者の槇野陽介氏(東京大学・法医学教室)は「PCR検査は生きている人が優先された。死因不明遺体は外表検査や死後CTで診断しなければならないが、新型コロナウイルス肺炎と特定することは不可能だ。日本の死因究明はいい加減な状況が続いている」という。ジャーナリストの柳原三佳氏が取材した——。
法医学者の槇野陽介氏。槇野東京大学大学院医学系研究科法医学准教授/千葉大学大学院法医学教育研究センター法医画像診断学特任教授。
写真提供=槇野陽介氏
法医学者の槇野陽介氏。槇野東京大学大学院医学系研究科法医学准教授/千葉大学大学院法医学教育研究センター法医画像診断学特任教授。

正確な死者数は分からない「死因究明のいい加減さ」

——新型コロナウイルスの感染が拡大する中、毎日、各都道府県の死者数が発表されています。しかし、実際の死者数はもっと多いのではないかという声も聞かれます。槇野先生はこうした指摘について、どう思われますか。

【槇野】日本における死因究明のいい加減さ、およびPCR検査件数の少なさを考えれば、その指摘はおそらく正しいのではないかと思います。

——たとえば、自宅や街中で突然亡くなる人もたくさんいると思いますが、その人たちが皆、亡くなる前に病院に通っていたわけではないですよね。

【槇野】はい。死亡するような病気を持っている人が、生前に受診しているかというと、必ずしもそうではありません。心臓が急に止まるような病気なら、病院に行く間もなく死亡するのは理解しやすいと思います。

しかし世の中には、鼠径ヘルニアが嵌頓かんとん(※)して、腸が壊死しているのが体の外から自分で見てわかるような状態でも、意地でも病院に行かない人がいます。さぞかし痛く、苦しかったろうに、救急車も呼ばず(もしかしたら呼び方を知らず?)死亡してしまいます。そんなケースを今まで何例も見てきました。

※筆者註:内臓が組織の間隙からとび出し、そのまま腫はれてもとに戻らなくなった状態。

そんな我慢の強い方、病院に行かない方が、新型コロナウイルス肺炎で指摘されているような苦しい呼吸困難状態になっても我慢して、酸素が不足したり、まれに合併すると言われる髄膜炎になったりして意識を失ってしまえば、医療にアクセスできないまま人知れず死んでしまうことは十分にあり得ます。