ユーロの解体や崩壊などありえない。30余年にわたり欧州通貨統合の経緯を見続けてきた斯界の権威が、昨年のギリシャ危機以降メディアに広がるユーロ解体論や崩壊論といった“極論”を排しつつ、ユーロの実像を説き明かす。そんな本書を貫徹するのは、「ユーロの進展は不可逆的だ」という著者の強い信念だ。

たなか・そこう●1945年、福岡県生まれ。中央大学経済学部教授。九州大学大学院修了後、西ドイツ(当時)留学。東北大学教授を経て2004 年より現職。日本国際経済学会会長や日本EU学会理事長を歴任するなど、日本におけるヨーロッパ経済研究の第一人者。
田中素香●たなか・そこう 1945年、福岡県生まれ。中央大学経済学部教授。九州大学大学院修了後、西ドイツ(当時)留学。東北大学教授を経て2004 年より現職。日本国際経済学会会長や日本EU学会理事長を歴任するなど、日本におけるヨーロッパ経済研究の第一人者。

事実、ユーロは1999年の導入以来、圏内の為替相場の混乱を抑え、物価安定と貿易・投資の活発化を実現。さらに欧州の基軸通貨として中・東欧諸国に安定した為替相場秩序をもたらしてきた。「このようにユーロ導入のメリットは極めて大きいのです。だからこそ加盟各国は今回の危機を機に、ユーロから脱落しそうな加盟国への支援を目的とした金融安定化メカニズムの創設に合意したのです」。

そのメカニズムは、加盟各国からの拠出金を基に総額7500億ユーロの基金を設置し、財政赤字や国債の格下げなどによりデフォルトの危機に瀕した加盟国への緊急融資に備えるもの。

「このスキームが整備されたことで、市場で“ギリシャの次”と懸念されるスペイン、ポルトガルやアイルランドがデフォルトに陥ったとしても、“秩序あるデフォルト”として軟着陸させることが可能でしょう。少なくとも、ギリシャ危機時の日経平均1万円割れといった、世界的な株価暴落の事態は回避できると思います」

こうした安全弁の設置は進む一方、ユーロが孕む構造的な問題は手付かずのままと著者は指摘する。それが本来“西欧先進国”通貨同盟としてスタートしたユーロに、ギリシャなど経済力の劣る諸国が加盟したことで生じた、両諸国間の慢性的な経常収支と競争力の不均衡「リージョナル・インバランス」だ。

この当初の構想と現状のずれを、どう解決していくのか。「本来主導的役割を担うべき大国ドイツが時折見せる、頑なで内向きな姿勢」などに苦言を呈しつつも、著者の展望は暗くない。

「西ドイツ留学中の79年に欧州通貨制度(EMS)がスタートした際、同僚のドイツ人教授ですら通貨統合など幻想と冷笑的でした。しかし、欧州各国は粘り強く相反する利害をすり合わせ、EMSを見事ユーロへと発展させてきたのです。その“制度づくりの巧みさ”には幾度も目を見張りました。その意味で私は信頼しています。彼らは今度もうまくやるだろうと」

深い信頼に支えられた明確でぶれのないユーロ論。ユーロを巡る言説が不安定さを増す今こそ、その意義は光る。