日本も米国も政治家が育っていない

「変える!」ための三カ条

先般の選挙で自民党が自壊して民主党が政権をとった。民主党にはぜひ「軸のぶれない政治」をお願いしたい。報道から伝わってくる民主党幹部の姿はあまりに情けない。

田中角栄のように日本列島改造を掲げ、日本を俺が引っ張っていくという確固たるビジョンに満ちた政治家を、案外諭吉は支持するだろう。

尊皇攘夷派のように、いたずらに日本の都合だけで、外国人を排斥すれば日本がよくなるとは諭吉は考えていない。アメリカに「ノー」と言い、中国、ロシアに「イエス」と言うだけでは話にならない。外交というのは、確固たる自分の考えを論理立てたうえでのギブ・アンド・テークであるはずだ。

僕が、IBMの社長として外国人と一緒に仕事をしたときは、徹底的に話し合ってきた。諭吉も問題意識を持っていたことだが、日本の「以心伝心」では通用しないのだ。コミュニケーションを密にして、こちらの考えを的確に伝え、向こうがどう思っているかを聞くことが大事なのだ。そこさえ、きちんと心得ていれば、仕事は熱心にやってくれる。

諭吉は「国際人であれ」と強く説いた。西洋かぶれ、中国かぶれになることとは違う、グローバル化の進む世界の中でいかにして日本の国益を守るか。それができる人物を育てようとしたのだ。

ただ政治家が育っていないというのは現代の日本だけに限った話ではないようだ。つい最近も友人のアメリカ人と話をしたら、オバマ大統領が、今ビューッと人気を落としてしまったのだという。

彼は共和党員で富裕層だからもともとオバマをあまり褒めないのだが、アメリカの民主党の中からも、オバマで大丈夫なのかという疑問の声が大きくなってきているようだ。オバマの理想論は確かにわかりやすい。大衆をつかむスピーチ術も見事なもの。ただ、アメリカをこうしようという具体策が全く見えてこないのだという。人材はどこの国でも足りていない。現代に福沢諭吉精神がまだ必要だということなのだろう。

※雑誌掲載当時

(松山幸二=構成 小原孝博=撮影 慶應義塾大学=写真)