加害者側に資力がある場合は、こちらが提訴する前に、相手方が示談を持ちかけてくる例が多い。民事で示談や和解が成立すれば、刑事でも加害者が反省した証拠として認められやすく、量刑に影響を及ぼす可能性があるからだ。示談に応じれば刑が軽くなる恐れがあり、応じなければ民事訴訟を起こす労力を強いられる……。被害者にとっては痛し痒しだが、「選択肢があるだけ、まだ幸いかもしれません」と、荘司弁護士は指摘する。

「最悪なのは、加害者側に示談を成立させるほどの資力がない場合です。民事で争って賠償請求が認められても、加害者側に財産がなければ強制執行のしようがない。これは損害賠償命令制度を利用した場合も同じ。実質的に何の賠償も受けられず、泣き寝入りするしかない被害者が、実は多いのです」(荘司弁護士)

そこで注目したいのは国による救済措置だが、残念ながら日本の犯罪被害者保護制度は十分とはいえない。犯罪被害者には、1980年に制定された「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に基づき、遺族給付金や重傷病給付金、障害給付金が支給される。少年や責任無能力、緊急避難による被害も対象になるのはありがたいが、問題はその給付額だ。

例えば、被害者が死亡したときに支給される遺族給付金の給付額は、上限で1573万円。自動車の死亡事故に遭った場合に支払われる、自賠責保険の保険金上限3000万円の約半分にすぎず、補償としてはいかにも頼りない。

「給付金の額が低いのは、行政の事情で額が決まる見舞金の扱いだからです。被害者や遺族の生活を支援するのなら、補償制度として位置づけ、損害賠償と同じ額を支給すべきです。いつ誰が巻き込まれてもおかしくないのだから、国民の税金を使うことについても広く理解が得られるのではないでしょうか」(同)

(ライヴ・アート=図版作成)