2次提案、3次提案がサッとできる感性を磨け

私はこの体験から強烈なプロ意識とホテルマンとしてのプライドを学んだ。まず「Yes」で引き受けてとにかくベストを尽くす。それでもできなかった場合でも「No」ではなく2次提案、3次提案をする。もし、修理できないのなら、「私どもでお貸し出しできるスーツケースをご用意しております。取っ手の壊れたスーツケースはお預かりしまして、次回、ご来館されるときまでにきちんとお直ししておきますが、いかがでございましょうか」。もし、しばらく来館の予定がなければ、「それでは私どものエンジニアに応急処置をさせます。それでよろしければお預かりいたしますが」。「重い書類を詰めていくので、それでは心もとない」という返事なら「それでは、取っ手の応急処置をいたしますので、それに荷物をお詰めください。そのうえで、安心してお持ち帰りいただけるようにロープを張って処置をいたしますが」。「そうか。それじゃ、取り急ぎそれで頼む」というときに初めてお客様のご要望に対して答えを出すことができる。

2次提案をすれば、そのあとはお客様の返答しだいでまた新たな提案が考えられる。ホテルマンに限らず、どんな提案ができるかは、サービスをする者の力量にかかっている。豊富なアイデアを常に持っておくためには頭を柔らかく、感性を鍛えていなければならない。通勤の際も、毎日同じ道を歩くのではなく、違う道を歩いて新しい発見をする。それだけでも感性が磨かれる。たとえ100%でなくても、最大限お客様の要望に応えていく方法を考えるようにしたいものである。

情報提供や確認を的確にしておくことも大切なことである。お客様にいろいろなことを尋ねられる。たとえば、「近場でおいしい焼き肉レストランはないか」「ハイ、この店はいかがでしょうか」。すると、「あんた、行ったことあるの?」と問われる。ホテルマンの給料では、高級な店に行けないことも多い。「いえ、ほかのお客様が行かれておいしかったとよく聞きます」。「それはおまえの情報ではないじゃないか」と言うお客様がいる。いまはインターネットで何でも調べられるが、自分自身がサービスであるという自負があるなら、自身で確認した情報をお伝えできるようにするべきである。