拠出した資金はなくなるわけではない。危機を脱して不良債権を処理できれば、銀行は健全な体に戻って利益を出せるようになる。そのときに吸入分に利息を付けて戻させればいい。実際にスウェーデンでも日本の金融危機でも投入された公的資金は、ほとんどが返還されている。

また国際機関を組織する際、そもそもの原因を生み出したアメリカが陣頭に立つ責にある。世界各国にこう言って謝り、資金協力を請う。たとえば中国には「いままで人権、人権とうるさく言って申し訳ない」と頭を下げ、「テロ支援国家と見間違えて申し訳なかった」と湾岸諸国に謝罪する。ロシアにもグルジア戦争を仕掛けたことを謝る。

要するに、いままでの力の外交に終止符を打つ「儀式」が必要なのだ。この流動性供給機構のトップには、ラリー・サマーズ教授やスウェーデン方式を編み出したイギリスのアラン・モーガン氏などをもってくるといいだろう。

そしてもう1つ、今後の世界の金融システムを守るために、国際的な金融監視団をつくることも検討すべきだ。

アメリカは金融監視団の査察を受け入れて、監視団が認証した金融商品しか輸出できないようにする。サブプライムを含んだCDO(債務担保証券)のような劣悪な金融商品の輸出はやめさせる。公社から民営化されて単なる私企業にすぎないファニーメイやフレディマックの債券を、いかにも政府保証付きの準米国債のごとく「ミートホープ状態」にしたり、産地偽装して世界に売るのもやめさせる。

また、混乱に乗じて為替市場で狼藉の限りを尽くしているヘッジファンドなどの規制も、彼らに無節操に貸し出す銀行への制裁も併せて強化すべきだ。弱り切った中央銀行や不慣れなヨーロッパ中央銀行(ECB)は、高い倍率で空売りを仕掛けてくるヘッジファンドに対抗できない。このままいけば市場だけでなく、産業そのものが破壊される。

今回の金融危機は100年に1度の大きなものだと言われている。しかし、私に言わせれば、歴史から学んでいない当局、政治家たち、学者、アナリストなどが考えもなく対処し始めたために被害が広がったにすぎない。

日本も「金融危機先進国」として過去15年間の十分な分析と総括、そして反省があれば、世界に大きな貢献をすることができたハズである。少なくともG7で資本注入を(まだ第1フェーズの体制ができていない)アメリカに建議するような愚は犯さないはずである。

(小川 剛=構成 宇佐見利明=撮影 AP Images=写真)