フロム・エージャパンとしては、大事な若手社員をセレブリックスに「預ける」ことへの不安は特になかったという。

「セレブリックスの事業内容や仕事の進め方についてはよく知っていたので、うちの社員がその一員として仕事をすることで、必ず得るものがあると思っていました」(金子社長)

フロム・エージャパンでは、09年7月から久保井さんを含め3名の若手営業マンをセレブリックスに在籍出向させており、最近もう一名加わった。それぞれ半年の契約なので、第一陣が戻ってくるのは10年1月。そこで初めて、この仕組みの真価がわかることになるが、今のところ評価は上々のようだ。

「中小企業の営業マンは、『井の中の蛙』になりがち。こういう形でこういう不況の時期に、人材を手放さずにむしろパワーアップさせることができるのは、弊社にとってもいいチャンスです」(金子社長)

セレブリックスでは現在、フロム・エージャパンを含む約10社から、約100名の在籍出向者を受け入れている。新聞に取り上げられたこともあり、電機メーカーや出版社など、さまざまな業界の企業から多数の問い合わせがあるという。希望の企業すべてから出向者を受け入れられるわけではないため、現在アセスメント作業を進めているところだ。

伊藤本部長は語る。

「もちろん、(現在社員を在籍出向させている出向元企業は)当初は、人件費を一部移転したいという考え方が、本音ではあったと思います。でも、実際出向者の様子を見て、研修としての価値を感じているようです。『マネジャーやリーダーになる前の、研修制度として活用することも検討したい』という企業が増えています」

落ち込んだときも一に行動二に行動

久保井さんは、「景気が回復しても、モノが売れない時代は続くと思う。すると、営業がどう介在するかがますます問われ、専門性が上がることになるはず」と語る。自身の営業マンとしての力量を上げるうえで、在籍出向中に多くのことを学んだようだ。

「以前は単に『売れればいいんだ』と思っているところがあって、目標のアポ数を達成すると、コール数が減ってしまっていました。しかしそれではいずれアポも減っていくし、成果にも繋がりません。言い訳をせず、目標のコール数は確保し、行動量をキープすることの重要性を実感しています」

気が進まないときも、とにかく行動する。「『考える時間と行動する時間を分けろ』と、(櫻井)社長によく言われます」(久保井さん)。

悩みながら行動していると、中途半端になるので、行動するときは行動に集中する。悩みや迷いは、あとで上司や同僚に相談し、次の手を考え行動に反映させるのだという。

「金子社長には、ブルペンでは速球を投げるのにマウンドで成果が出ない『ブルペンエース』と言われるんです」という久保井さん。

金子社長にその真意を聞くと、頭でじっくり考えるが、それが行動になかなか繋がらない様子を指しているようだ。「考える時間と行動する時間を分ける」というのは、そんな久保井さんにぴったりの指針だろう。

久保井さんは、もうすぐ在籍出向を終えてフロム・エージャパンに戻ってくる。

「セレブリックスで学んだことを活かしたい。僕は30歳までにはこの会社を年商30億円の企業にしたいんですよ」と、今から楽しみにしている。

もっと楽しみにしているのは金子社長だ。「(在籍出向は)弊社も、セレブリックスも、出向した社員もみんなハッピーな仕組み。あとは社員が戻って学んだことを活かし、どんどん業績を上げてくれれば文句ないです」。

(ライヴ・アート=図版作成)