東京都内のとある大学で講座をもっている。ある日、学生たちに「自分が家庭をもったときの生活レベルが今の親のそれを上回ると思うか」という設問をぶつけた。すると、3分の2以上が「思わない」と答えた。

そこで「26歳に結婚するとして、家計のシミュレーションをしてみよう」と提案した。数字を黒板に書きこんでいくうち、みんなが失笑した。相当の収入がないと、親のレベルにはたどりつかない。学生のほとんどがもっと簡素に生活しないと無理だという結論に達した。

最近、そのシミュレーションをより現実的に再現した一冊の本が出た。三浦展氏の『シンプル族の反乱』だ。モノを買わない消費者を「シンプル族」と名づけ、各種データを駆使しながら、分析した本である。

シンプル族は若い世代、特に女性に多いという。自動車産業が不振になったのは金融危機だけのせいではなく、その前から、車を保有しようとしない人が増えていたからと作者は指摘する。その代わりに自転車の販売台数がウナギ上りに増えているという現象を裏づけとしてあげた。また、ユニクロや無印良品の製品に満足する若者が増えたせいで、デパートの売上高が坂を転がるように落ちている。

将来への不安、所得の低下、情報だけで満足するなど、著者は消費しないシンプル族の台頭の原因について分析している。自分の教え子たちを見ていると本当にその通りだと思う。

再び大学の教室に戻る。産業能率大学の調査で、会社の新入社員に、海外勤務を拒否するか、なるべくしたくないと思う人が3分の2いる、という結果が出ていた。そこで、私も学生に同じ質問をしてみた。驚いたことに、ほぼ同じ結果が出た。対外経済に依存する日本人が海外勤務をしたくないとなると、いったいこの国の対外経済の重責を誰が担うのか、と外国人の私が心配してしまう。しかし、学生たちはケロリとした表情で「質素な生活をすれば、なんとかやっていけます」と答えた。

早ければ今年末、遅くとも来年には、中国のGDPが日本に追いつくか、または追い越すことになるだろう。さらに、中国の清華大学が最近出したある研究レポートでは、2035年、中国のGDPが米国に追いつき、世界一位になる可能性があると予測している。そのときの世界の経済規模の序列は、中国、米国、EU圏、インド、そして日本となる可能性すらある。

日本の若者たちはこんな将来に本能的に不安を覚えているのではないか。モノを買わない消費者の登場という現象は、若者たちが自己防衛に走り出した結果ではないかと思う。

国民の不安感を取り払うのが政治家の責務だ。しかし、今、日本の政治家は自らの当選のためだけに奔走しているのではないか。選挙カーに乗る前にすこしは時間を割いて日本の若者や国民の不安を考えてみたらいかがだろう。