今回の危機で米国自動車のビッグスリーのうち、GMとクライスラーが破綻する深刻な事態となった。この2社とフォードを分けたものはなにか。筆者は株式会社制度の特徴である有限責任制度には、株主のモラルハザードという欠陥があると説く。

株主の経営への干渉を嫌ったフォード

米国の自動車産業にとって最悪の状況が去ったかどうかについて意見は分かれる。需要は低位で安定しているが、これからまだ二番底が来るのではないかと見る人も少なくない。仮に需要が回復しても昔の水準までは戻らないだろうという認識はほぼ共有されているようだ。同時に、電気自動車への移行が予想以上のスピードで進みそうだという認識も広まっている。少なくとも、将来のことを冷静に考える余裕は出てきたようである。

少し落ち着いてきたところで、今回の危機の原因を考えてみることにしよう。ビッグスリーのうちの2社が企業破綻を起こすというような深刻な危機がなぜもたらされたのか。サブプライムローンの破綻に伴う自動車ローンの焦げつき、その後の急激な需要の収縮といった市場の悪化が危機の原因と見られているが、原因はそれだけではなさそうである。経営上の理由もありそうだ。

それを考える手がかりは、GMとクライスラーは経営破綻を起こしたのに、フォードはそこにまで至らなかったという事実である。経営上の原因を探るには、この2社と比べたフォードの経営上の特徴を考えてみる必要がある。2社は通常の公開会社である。それに対して、フォードは同族が支配権を持っているファミリー会社である。

フォードももともとは普通の公開会社であったが、ずいぶん利益が出た年にヘンリー・フォードがこの利益を顧客に還元しようとしたために株主からの差し止め訴訟が提起された。余分な利益は株主に還元されるべきだという裁判所の判断が出て、フォードはこの訴訟に敗れた。それがきっかけとなってヘンリー・フォードは会社の上場廃止を決意し、最近の言葉で言うと、マネジメント・バイアウトを行った。株主による経営への干渉を嫌ったからである。

再上場に際して、株式は2種類に分けられた。議決権のある普通株式はフォード家が保有し、議決権のない優先株を市場に流通させることにしたのである。

同族が支配権を握ることによる経営上のメリットを考えるために株式会社制度の最大の特徴である有限責任制度を考えてみよう。

全社員(投資家)が無限責任を持つ合名会社、経営に関与する投資家に無限責任を負わせる合資会社など、他の会社制度に対する株式会社制度の最大の特徴はすべての株主が有限責任であることと、持ち分証券である株式が自由に流通することである。

有限責任とは、会社の負債に対しては責任を負わないこと。これは、株式会社の利点である。このような条件があるから一般の人々でも安心して株が買えるのである。しかし、この有限責任は、深刻な欠陥の源泉にもなりうる。

深刻な欠陥とは、株主のモラルハザードである。会社に留保したお金は負債の支払いのために消える可能性があるが、有限責任制のもとでは、配当として株主が受け取ったお金は取られる心配がない。だから、株主は会社に過剰な支払いを求めがちである。場合によっては、企業の長期的な健全性が毀損されるような分配を要求してしまうことがある。これが株主のモラルハザードである。