(1)障害を見きわめる

一部の問題では前進したが、他の問題では行き詰まっているというときには、双方が納得できる合意を阻んでいるものは何かをしっかり見きわめなければならない。ハーバード・ロー・スクールのロバート・ムヌーキン教授はスタンフォード大学の研究者たちと共同で、戦略的行動、反作用的過小評価(reactive devaluation)、権威の問題など、合意を阻む一般的な障害のリストを作成している。

たとえば、一方もしくは双方にベストオファーを出さないという「戦略的行動」が障害になっているのではないかと思う場合、信頼できる公平な第三者に助けを求めよう。そうすれば交渉者はそれぞれ自分の最低ラインをその中立の人間にこっそり明かすことができ、重なる部分があるかどうかがその中立者から双方に伝えられる。重なる部分がある場合には、合意ゾーンの中で迅速に合意をひねり出せるはずだ。重なる部分がない場合は、交渉を打ち切って他の方法を追求するほうが賢明かもしれない。

心理的要因が合意を阻むこともある。スタンフォード大学のリー・ロス教授は、われわれには、他人が自分に差し出すものを反作用的に低く評価する傾向があることを明らかにした。「それが彼らにとって本当に重要だったら、彼らはその譲歩をしなかっただろう」と思ってしまうのだ。ものわかりのいい数字を提示したりして決着をつけようとするのではなく、相手が具体的な要求を出すのを待つようにしよう。そうすれば、あなたは自分の譲歩の相手に対する価値と相手の満足度を高めることができる。

合意に達するためには2つのチームがタッグを組んで交渉にあたることが必要な場合もある。最初のチームが、重要な問題の一部を解決したところでエネルギー切れになることがある。その場合は新しいチームと交代すれば、新チームは前任者たちが発生させていた人間関係の問題にしばられることなく、新しい視点を持ち込むことができる。顔ぶれを変えることは、最初のチームが限定的な権限しか持っていない場合は、とくに有効だ。これは外交交渉でよく使われるやり方で、まず実務家が交渉して土台を固めたあと、国家元首が会談して残りの問題を解決する。