経営学の眼●組織の横串を通す「3つの共有」
一橋大学大学院商学研究科教授守島基博

組織の壁を壊そうと考えるとき、多くの人の頭に思い浮かぶ手法はいろいろな部門から人材を選抜してミッションを与え、直接トップにレポートさせたゴーン氏率いる日産の「クロスファンクショナルチーム」ではないでしょうか。

日産の事例にもあるように、「壁を壊すには組織構造を変えればよい」という理解が一般的です。しかし、実際に重要なことはそれ以上に、コミュニケーションプロセスのマネジメントにあります。

とくにシャープペンシルのような技術一辺倒でもマーケティング一辺倒でもうまくいかない商品では、技術部門と企画部門が目標を共有し、コミュニケーションを取らなくてはいけない状態をつくり出すとともに、場面に応じてどちらかが主導権を握り効果的に目標達成を進めるためのパワーバランスをうまくマネジメントしていくことが大事なポイントになります。

この際にベースとなるのがおのおのの役割認識と相互の信頼関係構築です。「主導権を与えても自分たちの利害は守られる」という信頼関係がなければ、安心して主導権を渡すことなどできません。

これを構造的に見ると、同じ会社に勤める仲間として「信頼の共有」があり、その上のレイヤーに商品開発に関する「目標の共有」があり、さらにその上のレイヤーに個々の会議における「場の共有」がある3層の構造をつくり上げる必要がある、ということです。

ただし信頼の共有は長期、目標の共有は中期、場の共有は短期と、3つのレイヤーをつくり上げる時間軸は異なり、おのおの異なった企業内活動により構築されます。

しかし、この時間軸が異なるレイヤーを折り重ねられたからこそ、三菱鉛筆ではマーケティング系でも技術系でもない発想を生み出せたのだと推察します。

(的野弘路=撮影/コラム:一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博 構成=宮内 健)