「アドリブとは、計略をめぐらせることなく舞台上のパートナーと手を携えてやっていくということ」とホーゲンソンは言う。「相手の言うことをけっして否定しない。まず肯定する。それから情報を付け加えていくんだ」。

インプロビゼーションの最も重要な教えは、出されたアイデアに対して「イエス、アンド……(そうですね。ですから……)」で答えることだと俳優たちは言う。つまり、どんなアイデアが出されても、聞き手はそのアイデアを肯定して、それを土台に積み上げなければならない。

企業にインプロビゼーション・トレーニングを提供しているミネアポリスのスティーヴィー・レイズ・インプロブカンパニーの責任者、ステーヴィー・レイが企業トレーニングで受講者にやらせているエクササイズに次のようなものがある。まず、受講者の1人に、その会社が直面している問題を1つ挙げさせる。たとえば、誰も定刻には出社しない、といった問題だ。それを受けて次の人は、まったく意味をなさない解決策――たとえば、会社には紫の服を着てくるよう全員に義務づけるといった案――を提案しなければならない。その次の人は、この2つのアイデアを、その問題の解決策になるようになんとかして結びつけなくてはいけない。たとえば、紫の服を着ると興奮するので、車を走らせる速度が速くなり、早く出社できる、といった具合に。このような訓練を繰り返すと、チームはもっと協力して問題を解決していけるようになる、とレイは言う。

アドリブで最も大切なルールは自分を信頼することだ、と講師たちは言う。職場でこの技術を活用するためのさらなるヒントを紹介しよう。

(1)スローダウンする

 「われわれは舞台の上で頭を速く回転させてはいない。ゆっくりと効率的に動かしている。1つのアイデアを見つめて、そのアイデアにコミットする。必要なのは、1つのアイデアをつかむことなのだ」と、トランスアクターズ・インプロブカンパニーのディレクター、グレッグ・ホーンは言う。

 「大切なのは、考えることより、むしろ考えないことだ。これから何を言おうかといつも考えていたら、その瞬間を生きていないことになる。自分の口から出てくる次の言葉について考えているのだから」

(2)登場人物を理解する

ニューヨーク市のアクターズ・インスティテュートでインプロビゼーション・テクニックを使って企業幹部を指導しているジャニス・オルークは、クライアントの金融機関に嫌がらせを受けていると感じているインターネット・マーケティング会社の社員たちに、「扱いにくいクライアントをどう扱うか」という寸劇をつくらせた。それを通じて彼らは、クライアントが心配して頻繁に電話をかけてこなくてもすむよう、進捗状況に関してもっと頻繁に知らせる必要があることに気づいた。「渦中にいるときは圧倒されて、最もシンプルな解決策を思いつかないものだ」とオルークは言う。

(3)チームとして活動する練習をする

チームの結束力を強める方法に連想ゲームがある。まず、誰かがクライアントに関連した言葉を1つ出す。次の人は、クライアントに関連した言葉か、最初のメンバーの言葉に関連した言葉を言う。これをしばらく続けると、チームはよりスムーズに機能するようになる。メンバーたちが、他のメンバーの出した合図により上手に応答できるようになっているからだ。