政府は2月1日、今回の新型コロナウイルスを感染症法に基づく「指定感染症」に指定したが、まだ「新感染症」には指定していない。国会では、政府や都道府県、指定公共機関が行動計画を策定済みで、より強制力のある措置が可能な「新感染症」に指定すべきではないかとの議論もされている。今後、事態がエスカレートした場合、新感染症に指定される可能性もあるが、いずれにせよ、鉄道各社の対応は新型インフルエンザ等に備えたBCPに沿って進んでいくものと思われる。

運転士や車掌が感染したら運行はどうなる?

ただ、実際のところ、鉄道各社が取り得る対応は限られているのが実情だ。BCPとは緊急時でも最低限の業務を遂行できる体制を取るための計画で、鉄道会社の場合は社員に感染が広がり、多くの欠勤者が出た場合の対応が計画の中心となる。

国土交通省が2014年に報告した「公共交通機関における新型インフルエンザ等対策に関する調査研究」によれば、国内でパンデミックが発生し、最大で社員の4割が欠勤する状況になった場合、調査対象となった25事業者のうち半分以上が、朝ラッシュ時間帯の運行本数は通常の20%~50%になると回答している。

これは1時間当たり20本(3分間隔)を運行している路線であれば、50%で10本(6分間隔)、20%で4本(15分間隔)となる計算だから、到底朝ラッシュ時の輸送を賄いきれる輸送力ではない。

同調査研究では、流行のピーク時に鉄道の輸送力が低下した場合、朝ラッシュ時の駅や車内での混雑状況についてもシミュレーションを行った。これによると1時間あたり6本(10分間隔)の運転になった場合、外出自粛の呼びかけなどにより利用者が通常の6割程度に減ったとしても、列車の混雑率は2時間から3時間にわたって250%に達するほか、多数の駅で列車に乗り切れない人が発生するなど、朝ラッシュ輸送は破綻状態に陥るとの結果が出ている。しかも、混雑が激しくなればなるほど、乗客は密着することになり、感染リスクは高まるのである。

「乗客の間隔を1~2m空ける」ことなんてできない

仮に、感染リスクを最小限にしつつ輸送を継続する場合、どのような対応になるのだろうか。国土交通省国土交通政策研究所は2011年、感染症の拡大を抑制するため、列車内で乗客の間隔を1~2m確保した場合の輸送のシミュレーションを行っている。

これによると、首都圏で一般的に使われている20m車両の1両あたりの乗車人員は、1mの間隔を確保した場合で40人、2mの間隔を確保した場合で18人まで減少すると試算されている。

通常、混雑率150%の列車であれば1両あたり200人以上が乗車していることや、駅のホームや乗降時には他の乗客に接近せざるを得ないことを考えると、あまりに非現実的な想定である。一切の交通を遮断するならともかく、感染を防ぎつつ、輸送を継続するという選択肢は成り立たないことが分かる。