しかし、そうやって食い込んだとしても、不況時には「購入を検討していたが、やはりやめた」「設備投資計画が延期になった」等々、購入の中止・延期が増えるもの。短期的にしか物事を見ていない営業チームはこういうときに弱い。上司は「今月どうなんだ」と迫り、営業マンは焦って「購入しないと決めた顧客」に強引に売り込もうとして何度も通う。これでは顧客に嫌われてしまい、売れないばかりか、景気が回復し本当に購入するときに、他社に逃げられてしまう。

新規取引(口座開設)に関する購買担当者の意識
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新規取引(口座開設)に関する購買担当者の意識

この時期、中止・延期した顧客への対応はとても重要だ。「わかりました」といったんは受け止めて、「検討再開までに何かできることはありませんか?」と言ってアプローチの仕方を変え、顧客の「相談に乗る」ポジションに切り替えるのがベスト。中止を伝えるのは相手にとっても嫌な仕事。「そこを何とか」「いつですか」などと迫ると、怖がって、景気回復時に他社に乗り換えられてしまう。

こういう時期には、受注見込みや売り上げ予想を「このうち3分の1は消える」と割り切るくらいシビアに設定し直す。多くの営業担当者はプラス志向ゆえに、例えば商品の購入について顧客が「2~3カ月後か、場合によっては4カ月後」と答えると、“勝手に”「2カ月後」と考えてしまう。だから、2カ月後にはつい「遅れている」と思い、焦ってしまう。逆に、最悪の事態を想定し「4カ月後」を基準にスケジュールを設定すれば、2カ月経った後でも「あと2カ月ある」と考え、落ち着いてアプローチできる。

担当者レベルで購入の可否が決められる、低価格の商材を提案するのも有効だ。景気の回復などで状況が変わったときにプラスアルファを提案したり、競合他社の参入を防ぐためだ。互いに気心が知れれば、大きい商談もきやすくなる。

ライバル社の動向を探ることも必要だ。顧客が商品の購入を延期したので、勝手に「半年間は買わないだろう」と考えてしばらく放っておいたら、顧客は3カ月後に競合他社の新品を買っていた、という例もある。

不況期の営業活動は、実は将来を左右する。顧客は、苦しいときに助けてもらったことは後々まで覚えているもの。不況時に植えた種が、好況に転じたときに大きく花開く可能性もあるのだ。

(野崎稚恵=構成 田辺慎司=撮影)