2007年6月、ロンドンで発表されたイギリス人アーティスト、ダミアン・ハーストの「神の愛のために」と題された作品は、5000万ポンド(日本円で約120億円)というものでした。18世紀に30代で亡くなった男性の頭蓋骨に8601個ものダイヤモンドを散りばめ、眉間には400万ポンド(約9億6000万円)の大きなピンクダイヤモンドが光り輝き、制作費だけでも1400万ポンド(約33億円)という現代アート作品史上、最高額のもので、3ヶ月後には投資グループによって購入されました。

また、昨年、5月にはニューヨークのサザビーズのオークションで村上隆さんのフィギュア「マイ・ロンサム・カウボーイ」が約16億円で落札されました。アートバブルだった、ということもあると思いますが、中国でも40代の現代アーティストの新作が1億円を超すという状況が続きましたが、今回のアメリカに端を発する金融危機、景気後退でようやくアートマーケットも落ち着きを取り戻しつつあります。

ダミアン・ハースト作『神の愛のために(For The Love Of God)』。プラチナのドクロにダイヤモンドをちりばめてある。お値段は、約120億円(5000ポンド)相当。©AFP/Prudence Cuming Associates Ltd
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ダミアン・ハースト作『神の愛のために(For The Love Of God)』。プラチナのドクロにダイヤモンドをちりばめてある。お値段は、約120億円(5000ポンド)相当。©AFP/Prudence Cuming Associates Ltd

さて、億単位の話も飛び交うアートの価格というのはどうやって決まるのでしょうか。一言でいえば、相場です。例えば、基準にある市場で100万円の作品を置き、その作品の作者の実績や評価と比較して、まあ半分の50万円だろうとつけたりします。素材や大きさで決めることも多く、サイズが大きければ少しだけ高くなりますし、鉛筆画(ドローイング)よりは、アクリル絵の具や油絵の具で描かれた絵画の価格の方が高くなります。展覧会が増えてゆけば、少しずつですが、価格が上昇してゆくことになります。ですから、初個展がそのアーティストのスタートラインであり、最低価格、ということです。

それからアーティストの人生サバイバルゲームが始まるのですが、個展を定期的に続けて行ったり、美術館での大きなグループ展に参加したり、ヴェネチアビエンナーレやドクメンタといった大規模国際展に選ばれ招待されたりすると、徐々に価格が上昇していきます。また、オークションに出品され、欲しい人がいて競り合いになると、価格は上昇します。

そしてオークション落札価格という1つの大きな指針が残ります。その意味では、オークションというのは価格に大きな影響力を持っています。しかし、だからといってオークションで記録された価格がそのまま、他の作品全部の価格を急上昇させるわけではありません。アーティストの作品は、同じようなモチーフの作品はあっても、すべて世の中に1点しかないものであり、他の作品とは違うものだからです。

それでは、作品に価格がついたとして、アーティストはいくら手にすることが出来るでしょうか。一般的に言って、ある絵画作品が100万円で売られたとしても、アーティストは100万円を手にすることが出来ません。慣習によって、ギャラリーとアーティストの取り分は、50%と50%。つまり100万円の価格の半分の50万円がアーティストの口座に振り込まれます。しかし、オークションで作品の価格が億単位で急上昇したとしても、アーティストには1円たりともお金が入るわけではありません。それは「セカンダリー・マーケット」の話だからです。

アーティストが個展を行い、上述したようにギャラリーと一緒に歩むマーケットを「プライマリー・マーケット」と呼びます。アーティストが生産役、ギャラリーが営業役ということで、役割分担して非常にわかりやすいのですが、実はその生産された作品は、もう1つの「セカンダリー・マーケット」で価格が上昇することが多いので、ややこしいのです。ギャラリーから作品を購入したコレクターが、オークションや個人間で売買するマーケットを「セカンダリー・マーケット」と呼ぶのですが、安く「プライマリー・マーケット」から作品を購入し、高く「セカンダリー・マーケット」で売ったコレクターは利益を得ますが、格安で作品を売ってしまったアーティストとギャラリーには全く関係のないところでの取引となるのです。もちろん、村上隆さんのようにオークションで破格な価格を記録し続けていれば、新作でも極端に安くすることは出来ないし、「セカンダリーマーケット」に引きずられる形で「プライマリー・マーケット」の価格が上がることになります。