幸福の経済学が次の段階として明らかにしたこと、それは特に先進諸国で20年前や30年前より所得が増えているにもかかわらず、幸福度はあまり上がっていないことだった。これは「幸福のパラドックス」と呼ばれる。

実際に日本でも、所得水準は64年から2008年で実質3.9倍になったにもかかわらず、生活に満足している人の比率は60%から70%前後で推移しており、上昇傾向は見られない。特に90年代半ば以降は、満足度の低下が目立っている。

なぜこういう状況が起きてきたのか。

それについては、主に2つの説が出されている。

一つは「相対所得仮説」と呼ばれるものだ。幸福度は他の人との比較で決まる。つまり所得格差は同じままで国民全員の所得が10%上がったり、逆に10%下がったりした場合、相対的には何も変わらないため、幸福度も同じという説だ。

もう一つは「順応仮説」と呼ばれる説である。自分の年収が300万円から500万円になったときはうれしいが、500万円がしばらく続くと、それ自体によるうれしさはなくなる。だんだんと豊かになったとしても、最初はうれしいが、人は環境の変化にすぐ慣れてしまうため、幸福度は上がらないというものである。

こうした議論が続く中、フランスではサルコジ大統領が09年から、「GDP崇拝ではなく、国民の幸福度を経済統計にも反映すべきだ」という趣旨の発言を積極的に行うようになり、世界的にも幸福の経済学が俄然、注目されるようになった。

ただ注意していただきたいのは、幸福の経済学は、幸福度を上げること自体を目的としているわけではないということである。