3月11日に発生したマグニチュード9.0という東日本大震災は、日本経済にも大きなダメージを与えた。折しも3月は決算期末を迎える企業も多く、会計処理の面から見た影響は計り知れない。

津波で大きなダメージを受けて放射能漏れを起こした東京電力の福島第一原子力発電所であるが、1号機から4号機について「廃炉にするしかない」との観測が強くなっている。海水を注入したことなどで発電する能力がなくなったとすれば、将来企業に何らかの経済的便益をもたらす「資産」とは見なされなくなる。

災害にともなう会計処理のフロー
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災害にともなう会計処理のフロー

図にあるように、災害を受けて未稼働となった簿価1000億円分の設備があるとする。そして期末になっても復旧せず、その設備の資産価値が物理的に失われ、災害によって500億円減ったとしよう。

期末の会計処理は貸借対照表(B/S)の固定資産にある「設備」から500億円を減額し、同時に損益計算書(P/L)の特別損失に「災害損失」として500億円を計上する。当然、その分だけ企業の最終利益は大幅な減額を余儀なくされることになる。

さらに、翌期になっても復旧のメドが立たず、廃棄することを決定せざるをえなくなったとする。その場合は、B/Sの固定資産として残っていた設備の500億円分を減額し、同時にP/Lの特別損失に今度は「固定資産廃棄損」として500億円を計上することになる。

ちなみに東電の2010年3月期の有価証券報告書を見ると、原子力発電設備の帳簿価格は「土地・228億8400万円」「建物・611億9300万円」「機械装置その他・5868億6600万円」で合計6709億4400万円。しかし、個別の発電所の細目は記載されていない。

そこで、福島第一原発の1号機から4号機までの合計最大出力281.2万キロワットが、東電の全原発の最大出力1730.8万キロワットに占める割合「281.2÷1730.8×100=16.2%」で換算すると、「6709億4400×0.162=1086億9292万円」という巨額の数字が弾き出される。いずれにせよ、東電の決算は大きなダメージを受ける可能性が高いだろう。

また、東日本大震災はすでに2月に決算期末を迎えていた百貨店やスーパーなどに影響を与えそうだ。決算発表などの処理をしている最中に、今回の震災で売掛金のある取引先が災害を受けて倒産してしまった場合、確かに決算期末は過ぎているものの、見積もりの変更として貸倒引当金を追加計上することが求められるからである。もちろん、会計実務で大きな支障が予想されるのが、いま決算作業の渦中にある3月決算の企業だ。

被災した企業のなかには帳簿がなくなったり、会計データが消滅してしまったところがあるかもしれない。このため、期末から45日以内の決算発表を上場企業に求めている東京証券取引所は、被災した企業には決算内容が固まるまで延期を認める方向で動いている。

また、期末から3カ月以内と定められている有価証券報告書の提出期限も、3月決算企業については延期が検討されている。さらに、期限を1カ月過ぎても有価証券報告書を提出できない場合には上場廃止と決められたルールが存在しているが、どうやら当面適用を見合わせることで落ち着きそうだ。

東日本大震災は私たち日本国民の心のなかに大きな傷を残した。しかし、いまある資産を活かして日本を復興させることで、心の傷が癒やされ、決算書も明るい数字に塗り替えられていくはずである。大変なときだからこそ、前を向いて奮起していきたい。