痴漢や万引きを繰り返す人は、なぜ犯罪をやめられないのか。政治社会学者の堀内進之介氏は「両者には共通点がある。それは電車やスーパーなど『自身の役割から降りられる場所』で行為におよび、被害者の感情を都合のいいように解釈していることだ」と指摘する――。

※本稿は、堀内進之介『善意という暴力』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

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「仕事を一週間頑張ったから痴漢してもいい」

依存症当事者は、一般に思われているような意志の弱い、だらしない人というよりも、むしろ、自分自身で問題を解決しようとする、その意味では意志の強い人である。松本俊彦は、それを自己治癒学説で説明していた。だが、これはなかなか理解されない。それは、「ダメ、絶対」「人間やめますか、覚せい剤やめますか」という、これまでなされてきた説明とは合わないからだ。

では、薬物のようなモノに対する依存ではなく、プロセスや関係性への依存の場合はどうだろうか。

「仕事を一週間頑張ったから痴漢してもいい」
「女性専用車両に乗っていない女性は痴漢をされたい人だ」

こんなことを言うのは、どんな人物か。性欲の強い脂ぎった男か、それとも欲求不満なオタク男性か。だが、それは、ネトウヨは冴えない若い男性だと決め付けるのと同様に、全く間違っている。『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス、2017)などの著者で、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳によれば、件の人物はどこにでもいる「普通の男性」なのだという。彼らは痴漢時には、生理的な興奮状態(勃起)だったというわけでもない。

万引きの場合でも、「このお店でたくさん買い物をしているのだから、今日くらいは万引きをしても許される」、このように言う主婦がいるらしい。斉藤が、1600人を超える加害者の再発防止プログラムに関わってきた経験からすると、万引きを繰り返す人と、痴漢常習者とは似ているそうだ。どういうことだろうか。