ガンは初期には際立った症状がないので、人間ドックや健診などで発見されるケースが多い。

「甲状腺にしこりがあります」と指摘されても、けっして不安になる必要はない。多くの場合、よい経過をたどり、普通の生活ができるようになるからである。

甲状腺は首の気管の前、のど仏の下にあって、蝶が羽を広げた形をしている。大きさは3センチ、重さは15グラム程度で、正常な甲状腺は軟らかくて薄いので触れてもわからない。

甲状腺には海藻の中のヨードを取り込み甲状腺ホルモンをつくって分泌し、身体の新陳代謝を盛んにする働きがある。子供の場合は、成長を促進させる。

その甲状腺にできる腫瘍には良性と悪性があり、良性腫瘍がはるかに多く、その場合、多くは経過観察。一方、悪性腫瘍、いわゆる甲状腺ガンの多くは「性質(たち)のよいガン」なので、進行していなければ手術で大部分は治るとされている。

甲状腺ガンには「乳頭ガン」「濾胞(ろほう)ガン」「未分化ガン」「髄様(ずいよう)ガン」「悪性リンパ腫」の5種類があり、乳頭ガンが約85%を占め、次いで濾胞ガンが約10%、残りの3つは比較的少ない。

このガンは4対1の割合で女性に多く、年代的には40代が最も多い。

治療には「手術」「甲状腺ホルモン療法」「化学療法」「放射線療法」がある。

乳頭ガン、濾胞ガン、髄様ガンでは治療の基本は手術。ガンを含めた甲状腺の切除とリンパ節の切除が行われる。最近では、“体にやさしい医療”が流行とあって、ガンが小さいときには「小切開甲状腺切除術」が一般的である。

その小切開では首の部分をシワにそって3~4センチ切る。普通の手術の半分から3分の1程度である。手術での剥離面積が少ないので、術後の痛み、不快感は著しく減少。傷跡も高齢者ではシワと区別できないし、世代が若い場合でも、2~3年でほとんどわからなくなるという。

ただし、病状が進行してしまっていると、甲状腺全摘、拡大頸部リンパ節郭清(かくせい)といった大きな手術になるため、術後の後遺症はさけられない。反回神経を切離した場合、しわがれ声になり、誤飲を頻発してしまう。そのほか、副甲状腺摘出によって血中カルシウム値が低下するので、カルシウム剤、ビタミンD3剤を永続的に内服することも多い。

また、甲状腺ホルモン剤はガン細胞の増殖を抑えるといわれているので、術後、長期服用することになる。

抗ガン剤を使った化学療法は未分化ガンと悪性リンパ腫に対して優先的に行われ、放射線療法の併用もある。

乳頭ガン、濾胞ガンが肺や骨に転移しているときには、甲状腺全摘後に放射性ヨードの大量投与療法「アイソトープ治療」を行うことがある。放射性ヨードがガン細胞に取り込まれて、ガン細胞を破壊するのを期待する治療である。

【生活習慣のワンポイント】

甲状腺はヨードを材料にして甲状腺ホルモンをつくっている。ヨードは海藻類や貝類などに多く含まれ、特に昆布には多く含まれている。このヨードの摂取量によって甲状腺の病気に違いがある。

海に囲まれた国とあって日本人は、海藻をよく食べるので、甲状腺ガンの中でも性質のよい乳頭ガンが非常に多い。

一方、ヨード摂取量の少ない欧米人は濾胞ガンや未分化ガンが多い。

海藻類も適量が大事。毎食に海藻を食べる必要はまったくないが、1日の1食に海藻が入ってくるのはけっして摂りすぎとはいえない。“バランスのいい食事”が大事ということである。