「せっかくメールには送り先とCCがあるわけです。話を伝えたい人と、聞いておいてほしい人、できれば聞いておいてほしい人の3つに分けてメールをするようになっています。受け取り側は自分に対してきたメールを優先し、時間があれば、CCにきたメールをみるだけでバーチャル的に何をしようとしているかがわかるのです」

チマタでは、よく審議事項を「おれは聞いてない」という人がいて、その進行をストップする。楽天だと「おれは聞いてない」となっても、「CCをみていないオマエが悪い」となるのである。

メールを活用すればスピードも速くなる。どうしたって、楽天は「スピード重視」である。「スピードはクオリティです。100点満点のものを3日後に出すのだったら、80点のものを1時間後に出したほうがいいんです」

楽天野球団はビジネスモデルを観客のニーズに合わせ変えてきた。09年から、チケット価格を対戦カードや曜日により、5種類に変える「フレックス・プライス」も導入した。たとえば、巨人、阪神戦では7000円のバックネット裏席が、雨天中止の振り替え試合などの場合、3800円に設定される。

この料金体系は大リーグのチケット販売や、閑散期に値段が下がる航空運賃を参考に取り入れられた。

「チケット事業のマネジャーが、アメリカの事情を勉強しながら、日々のチケット販売の数字をみて、これを提案してきたのです。成功でしょう。チケット数の伸び方との相関関係は微妙ですけど、チケットの売り上げが上がったのは事実です」

球団職員は球場をボールパークと称し、「ファン・エンターテインメント」に努める。理念が「野球を通じて感動を創造し、夢を与える」である。一人ひとりがファンサービスを常に考え、提案する。だからだろう、職員の目がイキイキとしているのだった。

例えば、昨季のCS第二ステージ(札幌)ではKスタでパブリックビューイングが実施された。スタンドをのぞけば、約4200人が電光掲示板のライブ中継に一喜一憂していた。入場無料。試合前には選手エリアも巡る「ボールパーク・ツアー」が実施されていた。

球場は収容人員2万2000ながら、入場者数は右肩上がりで、09年は年間120万人を突破した。

楽天が目指すのは、世界最高のスポーツ・エンターテインメントである。ビジネスでは、単年黒字化の目標を2018年から14、15年に前倒しした。10年の目標を問えば、島田は即答した。

「日本シリーズに出ること、です」

楽天はビジネスモデルの仕組みづくりにまい進する。もしも新興球団が黒字経営で日本シリーズを制すれば、プロ野球に革命を起こすことになる。

インタビューが終わる。島田はお辞儀すると、次の打ち合わせに飛んでいった。ロビーを走る背中を追う。壁をみれば大きな額縁が飾ってあった。墨字でこう、書きなぐられている。

〈人は“財”なり〉

(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時