「私たちはシステムよりも人間の力を信じている」

「パートさんの話は私の話を聞くよりも、よほど面白かったでしょう」

京都の山科にある王将フードサービス本社で、鈴木専務はそう言った。

「私なんかも、店に行ったら、パートのおばちゃんから、鈴木さん、あんたも頑張ってるねとほめられる。彼女たちは王将を切りまわしているのは自分たちだと自負しています。それでいいんです。彼女たちは身分はパートタイマーですけれど、長年、働いていますし、料理も接客も社員以上にできる。実力があるんです。そして、そういう人たちに正社員にならないかと声をかけても、そんなのはうっとうしい、拘束されるのは嫌だ。キャッシュが欲しいんだとはっきりしている。また、長く働いてる人は洞察力を持っている。店長の仕事ぶりもちゃんと見ています。パートさんが支持しない店長はダメですね。パートさんに対する待遇をご覧になればわかるかもしれないけれど、王将は他の飲食チェーンとはまったく違う会社です。例えて言えば、うちは標準がない会社なんです」

「標準がない」とは、どういう意味ですか、と鈴木専務に聞き返したら、次のような説明だった。

「全国的な飲食チェーンの大多数は標準的な作業手順、標準的な立地、標準的な売り上げ目標といったものを持っています。例えば、マクドナルドさんはパートを雇うのでも、ひとり4時間くらいに時間を割って、雇っている。標準化をきちっと推し進めて、見事に人事コントロールをしている。ところが、うちは人に標準なんかあるものかという考え方です。働きたい人は何時間でも働くことができる。だから、20年も30年も同じ店で働くパートさんが出てくる。