みずほには幻滅したが君は信頼できる――

そして節目となった入行10年目。虎ノ門支店に転勤となる。それまで培った手法はここでも続けた。日経新聞、日経産業新聞、日経MJの3紙を毎朝チェックし、新興企業の社長インタビューなど気になる記事が目に留まれば、すぐ電話をして訪問した。

一方で、同じ新規といってもこれまでの飛び込み営業だけではなく、既存客や親密先などから顧客を紹介してもらい、取引へと結びつけるネットワーク型のビジネス活動に基軸をおくようになった。特に重点的に行ったのは保険会社やベンチャーキャピタル、総合商社のほか、弁護士、監査法人、経営コンサルタントファームといった「企業から先生と呼ばれる」人たちとの情報ルートの構築である。そのネットワークから得られる情報や相談に基づいて機敏に営業を開始するという、ソリューション型営業を試行するようになった。

たとえば、法律事務所などから顧問先企業についての相談を持ち込まれる。株式公開の準備、融資の妥当性等々、相談の内容は様々だ。それらの相談に耳を傾けて、解決策を導き出していく。対象企業は東京だけに限らず、茅ケ崎、豊橋、大阪など、鈴木さんは全国を飛び回る日々を送るようになった。

上司や審査セクションとコミュニケーションを密にし、解を導き出していく。経営コンサルタントやベンチャーキャピタルなどの機能が必要となれば、築き上げた情報ネットワークをフルに活用して、対象企業の弱点補強に乗り出す。「融資の実行」を軸として考えた場合、すぐには不可能であっても、いずれ実行できる日が訪れるだろう方法を、内外の機能をコラボレートしながら考えていくわけだ。外部のコンサルや弁護士などを巻き込むことで、行内的には客観的な説得力が増し、紹介してくれた先にも納得性が高まる。その順回転のよさが新規獲得98件という記録樹立につながっていった。

だが、常に順風満帆に進んできたというわけではない。

某アパレル企業を担当したときのこと。紹介された当初、同社の財務は赤字で、当然ながら融資は不可能だった。そこで、鈴木さんはベンチャーキャピタルを取り込み、増資によって資本を充実させるというアドバイスを行った。もちろんすぐに融資は行えないから、とりあえずは預金取引や商売のサポートに傾注する。さらにオーナー社長との個人取引を続けながら、来るべき融資実行の機会を待ち続けていた。

ある日、社長から自身の住宅ローンの申し込みを相談され、鈴木さんは個人取引に厚みを増せると喜んで動いた。しかし、なんと保証会社からゴーサインが下りなかったのだ。「一瞬、頭が真っ白になった」が、それで諦める鈴木さんではない。審査セクションに掛け合い、住宅ローンの代わりに他のローンを利用できないか動きはじめた。その働きぶりを見ていた社長の一言が忘れられない。

「みずほには幻滅したけれど、君は信頼できる――」