変革の評価を査定にとりこめ

文化は1つの手段であって、目的ではない。事業の戦略課題という目的をサポートできる文化を築くことが大切なのだ。まず事業目標を設定し、それを管理職に示して達成に対する責任を負わせる。そしてその成果を丁寧に評価するのだ。

セント・ジョージ銀行では、サービスの追跡調査をはじめ、あらゆるレベルでの変革推進活動を行った。各行員の査定でも、これらの事項による評価が少なくとも15%を占めるようにしたのだ。

さらに、組織構造、決定権、人材管理制度、評価基準、インセンティブなどの制度によっても文化は形づくられる。制度が新しい文化に一致していなければ何も変わらない。たとえば、スピード重視の文化を理想とするなら、いちいち情報をフィルターにかけるような管理職を減らさなくてはならない。職務責任を明確にすることが重要なのだ。

変革には長い時間がかかることがある。組織が正しい道を歩むようにするためには、顧客の声に常に耳を傾ける必要がある。ケリーは、毎週十数社の顧客を訪問し、昼食をともにすること、各支店を訪問することを習慣にした。

幹部たちもそれにならった。年に2回、トップクラスの管理職100人が顧客サービスセンターに出向いて、サービス担当者のクレーム対処の電話に耳を傾けるのだ。その結果を分析し、よりよいやり方を浸透させる努力をした。

変革の結果に対する適切なインセンティブも重要である。たとえばケリーは顧客重視の行動に報いるため、「スター賞」と呼ばれる同僚の評価に基づく社員の表彰制度を採用した。

これらのプロセスはどれも、すぐに変革につながるわけではない。が、セント・ジョージ銀行は明らかに新しい方向に向かっていた。4年連続で収益の2桁成長を達成したのである。この実績は、戦略のたまものであると同時に、文化によるものでもある。戦略の実行を可能にしたのは新しい文化だからだ。

最初の調査では、経営幹部の9割が文化を戦略と同じくらい重要としていたが、メルクのCEO、リチャード・クラークのように、もう1歩先をいっている経営者もいる。「実は、文化は戦略を食ってしまう」と、彼は『ビジネスウィーク』誌に語っている。「優れた戦略があっても、それをうまく実行するための文化や制度がなければ、既存の悪しき文化が、戦略を頓挫させてしまうだろう」。

(ポール・ミーハン、ダレル・リグビー、ポール・ロジャーズ=文 翻訳=ディプロマット)