P&Gが2005年9月に発売した置き型ファブリーズ、およびその後継で10年8月に出したファブリーズアロマでは、長期間にわたり利用者に香りを愉しんでもらえる製品作りを行った。属性面では、長期間の芳香効果を実現したり、香料の中に含有されるパフュームのオイル品質を高めたり、パッケージデザイン面においてもインテリアのようなおしゃれなたたずまいにした。 製品を構成するこれらの要素は、強力なマーケティング・リサーチに基づいて決定されている。

P&Gは、いわずと知れた世界最高レベルのマーケティング企業の一つである。その地位を揺るぎないものにしたインフラには、同社の「コンシューマー・イズ・ボス」という顧客志向ポリシーとマーケティング・リサーチがある。

同社では、常にボスである顧客のニーズにきちんと応えるため、徹底したマーケティング・リサーチを実施している。伊藤氏によると、ファブリーズアロマに関しても、発売前におよそ100軒にも及ぶ一般家庭で実際に使ってもらい、プロトタイプのチェックを行ったという。開発責任者の伊藤氏自身、このテストマーケティングに立ち合い、実際に家庭を訪問して、どのように使われているのかを観察したというのだ。

このような地道な探索作業の結果、ボスのニーズを満たし、同社が製品特性として最もアピールすべきと考えたことが、60日間香りが長続きするという点だった。P&Gでは、これまで消臭芳香剤というものを「カテゴリー・オブ・ブロークン・プロミス」と揶揄してきた。これは、消費者がメーカーから常に約束を破られる製品カテゴリーだという意味である。

一般に消臭芳香剤は当然、いい香りがすることを訴えるのだが、実際にパッケージを開けた瞬間は、強い臭いが漂い、例えば「ラベンダーの香りです」と広告を打っていたとしても、およそ花の香りなど想像できない状態にある。

また、しばしば芳香効果の長期持続性を訴えるのだが、例えば「60日間使えます」と謳ったところで、現実には3週間ぐらいしか香りは保たれず、消費者からは実効性のないセールストークだと思われてきた。実際に、従来の芳香剤では、使用期限に到達するかなり前に微香状態となり、部屋全体をいい香りで包むことはできなくなっていた。

P&Gでは、このような消費者への欺瞞的行為をなくし、消費者の不信や諦観による使用回避を払拭するために、パッケージを開けた瞬間からほどよい香りがたちこめ、それが60日間一定に維持できるような製品開発を行った。