日本に対する孫の深い愛情を感じる

ソフトバンクを悩ませる「電波問題」。今回の震災でも、つながりにくい状況がつづいた。現場の苦闘はつづく。
ソフトバンクを悩ませる「電波問題」。今回の震災でも、つながりにくい状況がつづいた。現場の苦闘はつづく。

100億円は、総資産7500億円を超えると予想される孫の個人資産からの拠出のようだ。孫はソフトバンク株を現時点で2億3161万4000株保有(2010年9月30日現在)しており、100億円をその持ち株数で割ると、およそ43.2円となる。寄付発表(4月3日)の前営業日の終値は3290円であり、他の要素をまったく考慮しない単純な計算で、ソフトバンクの株価が3333円に達すれば、孫はもとがとれる計算だ。

では、なぜ孫は100億円もの巨額の義援金を拠出するのだろうか。

ソフトバンクは震災発生の当日に東京から応援隊を派遣した。復旧対応メンバーを全国から招集、準備ができたチームから救援物資を携え、現地に入った。岩手の被災地に駐留するプロジェクトリーダー、島崎良仁(ソフトバンクモバイル・モバイルソリューション本部)は言う。

「被災地に足を置き、テレビ報道などでは決してわからない圧倒的な現実を目のあたりにして、絶句状態になりました。被災者のみなさんは、とにかく、目の前のことで必死なんです。少しでも早く復旧させたいと思い、1日2~3時間の睡眠で休みもとらず作業していました。私の部下も全員がそうです。必ず休むようにと本社から指示を受けるまで『休む』ということそのものを忘れていました」

テレビのニュースには映らない光景もある。なによりも津波災害の甚大さに茫然自失となった。トップが出した義援金の報を島崎は現地で耳にした。

「驚きました。ケタの大きさが私の想像を超えていますから。私たちは私たちのやれることを必死でやるしかない。社長も、自分がやれることをやったんだな、と思いましたね」

被災地から遠く離れた東京でも同様だった。「『今がんばらなければ、いつがんばる』という意識が社員の間に瞬時に広がり、誰に言われたわけでもなく、同時多発的にさまざまな支援策を考えた」(小田礼子・ソフトバンク総務部)のだ。

ソフトバンクの新30年ビジョンである「情報革命で人々を幸せに」という企業理念がここでも喚起された。

「私なりに考えると、まずソフトバンクという会社は、孫が先頭を切って走っているんです。その背中に向かって私たち社員も一生懸命ついていく」と、梅原みどり(ソフトバンクモバイル・CSR推進部)は分析する。「この100億円も、震災への対応も、日ごろの発言も含めて、日本に対する孫の深い愛情を感じるんです。そんな孫の存在が自然にソフトバンクの社風をつくっているんだと思います」。

孫は被災地を訪れるほかに、復興支援についてコメントし、原発問題などでも積極的に発言している。端から見ると、社業そっちのけのようにも見える。とにかく自分がやれることをやり、遮二無二に突っ走っている。