ポーカーにあって株式市場にないもの

――優れた直感を育てるには長い時間がかかる。たとえばチェスの選手が十分な数の盤面パターンを記憶に刻み込むためには10年にわたって勉強し、試合を重ねることが必要だ。
――直感は特定の環境、すなわち手がかりと迅速なフィードバックを与えてくれる環境においてのみ威力を発揮する。手がかりは次に何が起きるかを正確に知らせるヒントである。ポーカーや消火活動にはそれがあるが、株式市場にはない。

株のアナリストがどう思おうと、未来の市場の動きについて優れた直感を育てるのは不可能だ。公然と入手できる情報はどれ一つとして、今後の株価の動きについて役立つ手がかりを与えてはくれないからだ。新生児集中治療室にはそれがある。そこに入った赤ちゃんはしばらくとどまるからだ。だが、患者が治療環境から離れた後で示す症状については、フィードバックが得られないため、医学的直感を育てるのは難しい。

ある研究者グループが、臨床心理士がどのような基準を使って患者に診断を下したかを調べた後、それらの基準に基づいて単純なモデルを作成した。それから臨床心理士たちに新しい患者を診断させ、その一方でモデルを使って同じ患者について診断を下した。結果、新患の診断に関しては、モデルがプロよりよい結果を出した。

――お粗末な判断を迅速に下すのはたやすい。人間はたくさんの先入観を持っており、評価を下すにあたってそれらの先入観が判断を誤らせることがある。たとえば私があるグループに「ドイツ車の平均価格は10万ドルより上か下か」と質問し、それからドイツ車の平均価格はいくらぐらいだと思うかと尋ねたら、彼らはBMWなどの高級車を軸に考えるだろう。似通った別のグループに「ドイツ車の平均価格は3万ドルより上か下か」と質問し、それからドイツ車の平均価格を尋ねたら、彼らはフォルクスワーゲンを軸に考えて、先のグループよりはるかに低い価格を口にするだろう。どれくらい低いかというと、平均約3万5000ドル、すなわち2つの質問価格の差の半分だ。情報がどのように提示されるかが思考に影響を及ぼすのだ。

経験豊富な人でさえ、自然に生まれる考えが理にかなった直感によるものなのか、有害な先入観によるものなのか見分けることはできない。要するに、われわれはお粗末な直感しか持ち合わせていないのだ。