金融リテラシーについて学ぼうという機運が高まっているにもかかわらず、個人の資産運用に関する良書はなかなか見つからない。それもそのはずで、金銭教育の歴史はまだ浅く、個人向けの理論や概念がわかりやすく体系化されていないからだ。

そこでヒントになるのは年金運用を行う機関投資家の投資テクニックである。例えば、リスクを抑えつつ可能な限り高いリターンの獲得を長期的に目指すような運用計画の検討手法は、年金運用では常識とされるが、個人の資産運用においても大いに役立つ。インデックス運用を中核に据えるパッシブコアの運用手法や、定期的リバランスによる合理的な利益確定手法なども個人にとって極めて有用だ。

大多数の個人投資家は個別銘柄分析やチャート解析、売買タイミングの検討に夢中になるが、実はこうしたテクニックは資産運用に関する金融リテラシーとして優先順位は低い。それよりも、運用計画の立案、資産配分の決定が、運用結果に与える影響が大きいことを学ぶべきだ。

『お金をふやす本当の常識』では、このような資産運用の基礎をしっかり学べる。「わからない金融商品に手を出さない」というメッセージを理解するだけでも本書の価値はある。

もちろん機関投資家のテクニックがそのまま個人に通用するわけではないが、プロの持つ知見を参考にすることは大いに役立つ。機関投資家の運用テクニックを個人が活用できるようわかりやすい解説を試みているのが『大人の投資入門』である。また『自動的に大金持ちになる方法』は、書名はあやしげだが内容はベーシックで、誰でも資産を貯められる技術が平易に書かれている。私は普通の人だと思う人こそ読んでほしい。

お金について学ぶとき、金銭教育という言葉に引っ張られ、理想論を語る傾向があるようだ。マーケットでは、社会責任投資を行う資金もマネーゲームにいそしむ投機的資金も同じ資金であり、善意の資金に有利な投資条件が付されることはない。自身の投資が社会貢献に寄与することは素晴らしいことだが、その結果が資産の大幅な減少につながるようでは本末転倒である。運用の第一の目的は、経済的安定を確保することにあることは忘れないようにしたい。

運用について学ぶ際には主観を入れないことが重要だ。むしろ市場には悪意ある参加者や投機的参加者もいることを知り、どう投資とつきあっていくかを学ぶことのほうが「生きた金銭教育」としては重要だろう。

個別の商品知識の収集に夢中になる必要はなく、細かい諸条件は購入の検討段階で金融機関の担当者に聞けばすむ。それより重要なのは商品類型をきちんと把握し、金融機関が儲ける構図を理解することだ。

知識を貯め込むことよりむしろその場に応じて知恵を発揮できる力を養うことのほうが役立つ。例えば、空から降ってきた雨はH2Oであると知っていること(知識)より、瓶に貯めておけば飲み水になると考える能力(知恵)のほうが生活には役立つようなものだ。知識や情報の洪水に踊らされない「お金の知恵」を養うことが必要だ。